No.16【冬の日のランチ】

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当時、カップヌードルは発売されて間もない頃だったので、まだ珍しくてちょっとした特別感があったものだ。
その日は大変に寒くて、店の窓から見える外の景色は雪で真っ白だった。
ガラッ!と引き戸を開けて馴染み客のおじさんが入ってきたのだが、手にはカップヌードルを持っていた。
「今日は寒いねぇ。社長!ピアノ売れとる?楽器屋はええなぁ楽しそうで」
「まぁ、ボチボチよ。そりゃそうと、それなに?」
「ありゃっ、知らんの?カップヌードルよ。湯かけただけで食えるんよ、これが」
「ほう~」
「社長!湯、ちょうだいや」
常連さんはそういうと、カップヌードルのフタを半分剥がして、ストーブの上にあったヤカンの湯を注ぐ。
「社長、これで3分待つだけよ。冷めたらいかんからここへ乗せとこっと」といってカップヌードルをストーブの上に置いたのだった。
3分も経っただろうか
「もう、ええかな」といって常連さんがカップヌードルを持ち上げた瞬間、熱で溶けた底がストーブに張り付いてしまっていて、底が抜けてしまったのだ。
「ジュジュジュバ~!」と中身が全部ストーブにかかってしまって、ストーブは麺とスープで消化器を掛けたようになり、店は煙だらけになったのだった。


(最近カップヌードルの容器は紙質になったが、ながらくは発泡スチロールだった。)

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