No.141【お色直し】

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その日は披露宴が沢山入っていて、ホテルの宴会場は大変に忙しかった。

さて、「絢爛の間」の披露宴が始まろうとしていたのだがアクシデントが起きてしまった。披露宴全体の進行をコントロールするセコンド担当者が倒れたのだ。セコンドとはディレクターのような仕事をする係で、責任者であるキャプテンよりもある意味重要な役割だった。

すぐに代役を立てなければならないのだが、披露宴が立て込んでいて代役を立てるほどの人的余裕などなかった。やむ無くセコンドを任されのがセコンド業務を1回も経験したことがない中年のウェイターだった。

セコンドは、司会者や音響照明にキューを出したり、キャプテンとの連携に気を配り、時には料理を出す時間をも調整しなければならなかった。俄か仕立てのセコンドは訳が分からない中、懸命に仕事をした。

手元の進行表を見ると、お色直しで退場していた新婦が入場する時間が近づいているので、セコンドは入場の準備に取り掛かった。すぐに2人のドアマン係に声を掛けて入り口に立たせ、司会者にお色直しの入場を伝える。インカムで音響照明にもスタンバイを促した。

司会者のナレーションが会場内に流れる。

「はい!皆様、ご歓談中ではありますが、新婦のお色直しが整ったようであります。新婦、お色直し入場でございます。入口にご注目下さいませ・・新婦・・入場~っ❗️」

場内は暗転し、入口がスポットライトで照らされる。華やかな音楽が、より入場のムードを盛り上げた。スポットライトの中のドアマンは揃って一礼し、取手を持ってドアを左右にサ~ッと開けた。

〈❗️・・・・〉

しかしそこには誰もいなかった。

「あっ!・・えぇ~・・と、新婦のお色直しには、も、もう少し時間が掛かる、ようでございます・・皆様方には、今暫くのご歓談をお願い申し上げます」

司会者がシドロモドロになりながら、なんとかその場を繕おうとした。

・・・・・

俄かセコンドマンは、進行表の時間が来たから、忠実にドアを開けさせたのだ。
新婦のスタンバイ状態などは全く関知していなかった。
(宴会場名の固有名詞は架空のものです)

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