No.167【ランチャの男】

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知り合いにめっぽうクルマ好きの男がいた。だからクルマばかりに金をつぎ込んでいるので、もういい歳をしているのに独身だった。

さて、彼には兼ねてから欲しくて欲しくて仕方がないクルマがあったのだが、彼は、愛車〈メルセデス・ベンツE500〉を売り飛ばして、とうとうそれを手に入れた。

そのクルマは、ラリーで大活躍をした〈ランチャ・デルタHFインテグラーレ・エボルツィオーネⅡ〉という名前の、イタリアの名車だった。

なにも彼がラリーをする為に欲しかった訳ではない。ラリーなんてもってのほかである。彼のクルマには埃ひとつ付いてはいないし、雨の日には決してクルマには乗らないという、彼はそういうタイプのクルマ好きだったのだ。

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あるとき彼は友人たちとゴルフに行くことになったのだが、クルマ何台かに分乗して行くことになった。

「おい!ランチャインテグラーレも出してくれよ~乗ってみたいしさぁ~」

友人たちのゴリ押しに断り切れなくなった彼は渋々承諾した。

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ゴルフ当日、皆んなは4台のクルマに分乗してゴルフ場を目指したのだが、その中には真っ赤なランチャも混じっている。

やがて4台のクルマがゴルフ場の駐車場に到着すると、皆んなは早速ゴルフバックを肩に抱えてクラブハウスへと急いだ。

「あれ~?・・あいつはぁ?」

ランチャの彼だけがいないことに気付いた1人がそう言って後ろを振り返った。

「俺、ちょっと行って見てくるわ」

そう言って駐車場のほうへ確かめに行ってみたのだが、すぐに戻って来た。

「おい❗️アイツ、俺らが座っていたシートを刷毛で撫でてたぞ❗️」

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