No.287【拉麺とカレーライス】

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浜松にある、某ピアノメーカーの〈ピアノ調律師〉を養成する学校に在籍していた時である。

我々生徒は全国の特約楽器店から派遣されていて、全員が寮生活を送っていた。女の子も何人かいたのだが、さすがに少し離れたところに別の寮が用意された。

寮では1部屋に2人が入った。

相部屋になったヤツと僕とは馬が合ったので、少しのイザコザもなく寮生活が続いていたのだが、彼とはひとつだけ意見が合わないことがあったのだった。

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「おい、タマの日曜日なんだから街に出ようぜ」

日曜日の朝、彼は市内に遊びに行こうと誘ってきた。

「う~~ん、寮にいてもなんにもないし、そうするかっ!」

2人はいつもこんな感じで街に遊びに出ていた。

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男2人が街ブラしても、取り分け楽しいことがある訳でもない。だから楽しみといったら〈昼飯〉くらいなのだ。

「おい、昼飯、カレー喰おうぜっ❗️」

彼はいつもそう言っていた。カレーライスが大好きなのだ。勿論、僕もカレーライスは好きだ。好きなんだけれどもラーメンのほうがもっと好きなのだった。

「えぇ~っ?ラーメンにしようよ」

「また、ラーメンかよぉ。先週もラーメン喰ったじゃないか~今日はカレーにしようぜっ❗️」

「ラーメンにしようよ。味噌バターラーメン❗️」

こうして、ラーメンだぁ、いやカレーライスだぁと、いつも押し問答になるのである。

でも、彼は実に優しい性格の持ち主なのだ。殆んど僕の意見を受け入れてはラーメンに付き合ってくれたのである。例えば10回の内7回はラーメンを食べたという感じなのだ。カレーを食べた記憶はホンの数回しかない。

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やがて調律の学校を卒業して、皆んなそれぞれの楽器店に帰っていった。

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あれから数十年が経つ。彼は元気でいるのだろうか?今でもカレーライスが好きなのだろうか・・・

もしも再び会うことがあったなら、その時はカレーライスを食べようか。

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