No.289【究極の御馳走】

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大手企業や大学や医師などの色々な分野のトップが会員になって、社会奉仕を理念に活動している団体組織がいくつかある。

それらの〈クラブ〉は、週1とか、或いは2週に1回とか集まっては会合を開いているのだが、会場に〈シティホテル〉を使うことが多いのである。

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その日も定例会合が開かれていた。

昼前から昼食を挟んでの会合には、社会トップクラスのそうそうたる人達が集まっている。

昼食のメニューは毎回豪華なもので、〈幕の内の高級版の松花堂弁当〉〈フィレ(テンダーロイン)ステーキ〉〈フレンチ種々〉〈中華料理種々〉など多岐にわたる料理が提供された。

しかし、庶民から見れば物凄い御馳走なのだが、社会トップクラスの人達にはあまり受けが良くなかったのである。

和食では〈ブリ・ハマチの刺身〉どころか〈鯛の刺身〉ですら箸を付けない人が結構いて、〈サーロインステーキ〉などはもっと見向きもされないのだった。〈フィレ肉〉なら脂も少なくて柔らかいから、〈サーロイン〉よりは好まれた。

毎回毎回、料理人たちが工夫を凝らして作る料理なのだが、彼等は〈御馳走を食べる楽しみ〉ということは既に卒業済みと見えて、どんな料理も珍しくはないのだろう。

ところが、そんな彼等が喜ぶメニューがあったのだ。

それが〈カレーライス〉だった。

料理人とすれば〈カレーライス〉はホテル宴会課が出す料理としてはあまり似つかわしくないという考えがあるのかもしれない。だから年に数回くらいしか出さない料理だった。

ところが、この〈カレーライス〉がことのほか人気があったのだから驚くばかりなのだ。

〈サーロインステーキ〉や〈刺身〉には辟易とした人が多いのに、〈カレーライス〉は喜ばれたのである。

そりゃ、シティホテルのコックが腕に寄りを掛けて作る〈カレーライス〉なのだから使う食材も一級品なのだろう。そして、5種類の薬味が付けられたりして非常に凝ったものであったことも確かなのだが、しかし〈カレーライス〉は〈カレーライス〉なのだ。

中国の皇帝料理だって、行き着くところは〈海亀のスープ〉や〈燕の巣のスープ〉はたまた〈猿の脳ミソ〉などの珍しいものである。

各界の覇者達には〈カレーライス〉が珍しくて新鮮な料理だったのかもしれない。

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