No.308【UFO】

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それは小学5年生の時だった。

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当時の校舎は木造2階建ての古いもので、僕達の教室は2階にあった。
だから窓からは街全体をぐるりと囲んだ山々も見渡せた。

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ある日の休憩時間に廊下で遊んでいたら誰かが大声を挙げた。

「おいっ!空飛ぶ円盤じゃ~っ❗️」

当時はまだ〈UFO〉という言葉は無かったのだ。

「えぇっ❗️どこどこどこっ❗️ホンマかぁっ❓️」

僕はすぐに叫んでいるヤツのところに駆け寄っていった。周りで遊んでいた5・6人も集まってきた。

そいつは山の上を指差しながら言う。

「あそこじゃあそこじゃ!〇〇山の上っ❗️」

空飛ぶ円盤を確認した皆んなは大騒ぎし始めた。

「おっ!光っとるぞっ❗️」

「おお~~~っ❗️動いたでぇ」

「あっ❗️瞬間移動したぞっ❗️」

わ~わ~騒いだので休憩時間の終わりのチャイムにも気付くことなく、皆んなで教室の前まで返った時にはもう授業が始まっていた。

僕達の担任の先生は学校内で最も恐れられている男の先生だった。

先頭のヤツが恐る恐る教室の引き戸を開けると皆んなが一斉に振り向く、と同時に
先生の怒鳴り声が教室中に響き渡った。

「こら~っ❗️空飛ぶ円盤なんて言うヤツらは廊下に立っとけ~っ❗️」

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結局、総勢7名は、教室側を背に横一列に廊下に立たされることになった。

30分も経った頃だろうか、7名の中の1人が青春ドラマの熱血青年の台詞のようなことを言った。

「おいっ❗️ここじゃぁ反省出来んっ❗️校長室の前へ立とうやっ❗️」

皆んなはすぐに賛成した。

「おうっ!そうじゃ❗️」

「そうしようやっ❗️」

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1階の校長室の前へ移動した我々を追い掛けて担任の先生がやって来た。

「お前らが反省しとるのは分かった❗️もう教室へ返れ」

すると、かの熱血君が言う。

「いいえ先生❗️まだまだ反省が足りませんっ❗️」

廊下の騒がしさに校長先生まで出て来た。担任の先生から事情を聞いた校長先生はニコニコしながら我々を眺めると部屋に入っていったのだった。

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〈自主的廊下立ち〉は、5時限目も6時限目も過ぎて放課後まで続いた。前を通る先生方や生徒らは、異様なものを見るような目付きで通り過ぎて行く。

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担任の先生に説得されて、ようやく〈自主的廊下立ち〉を解除したのは、もう下校時間が迫ってきた頃だった。

そうして、長い長い1日がやっと終わったのである。

後から思えば、あれは意地を張っていただけで、反省などはしていなかったのだ。

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「こら~っ❗️空飛ぶ円盤なんて言うヤツラは廊下に立っとけ~っ❗️」

そう言って僕達を廊下に立たせた先生は、6年生になってもそのまま僕達のクラスの担任になった。

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やがて1年が過ぎて春になり、6年間過ごした思い出いっぱいの学舎を去る時がやってきた。

卒業式が終わって全員が教室に戻ったところで担任の先生の最後の挨拶があったのだが、あんなに恐かった〈空飛ぶ円盤の鬼先生〉の挨拶は、男泣きに泣いて言葉にはならなかったのだった。

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