No.309【クレソンの葉】

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若い頃、親戚の叔父さんが、どういう風の吹き回しなのか、高級レストランに連れて行ってくれたことがあった。

入ったレストランは、田舎者の叔父さんにはいささか不釣り合いな店だった。僕もそんな所は初めてだったので緊張した。

店内にはいかにも高級感溢れるムードが漂っているのだが、そんなことにはお構いなしに、叔父さんは大声でウェイトレスに注文をする。

「ねえちゃんよぉ!この店で1番高い肉をちょうだいやぁ~・・・どれかいなぁ・・英語は分からんっ❗️」

フランス語かもしれない横文字のメニューに目を泳がせながらそう言った。

「あ、はい・・それでしたら、こちらの〇〇〇〇になります」

ウェイトレスはメニューの1行を指差した。

「こりゃぁ肉か?」

「はい左様でございます」

「よしっ❗️じゃぁそれを2つじゃ!お前もそれでええのぉ!」

叔父さんは僕に確認を取るとさらに付け加えた。

「ねえちゃん❗️肉の横へ菜っ葉が付いとるかぁ?菜っ葉ぁいっぱい付けてくれぇよ菜っ葉~!身体にええけぇのぉ❗️」

余りの勢いにウェイトレスはプッ!っと吹き出した。

叔父さんの迫力勝ちである。緊張感が一気に吹き飛んでしまった。

・・・・・・・

ただ、やがて運ばれてきた〈フィレステーキ〉の肉の横には、マッシュポテトと人参のグラッセと1本のクレソンが乗せられているだけで、残念ながら菜っ葉の大盛にはなってはいなかった。

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