No.310【トランシーバー】

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少年時代には、よく〈トランシーバー〉で遊んでいた。

当時の子供達が持っていた〈トランシーバー〉は玩具の色合が強くて、電波が届く距離は高々知れていた。

「ザーザー・・〇〇くん応答ねがいます、どうぞっ!」

「はいっ!ピーピー・・こちら〇〇、聞こえますか?どうぞっ!」

いちいち、どうぞっ!と確認しないと2人の言葉がかぶってしまうのだ。〈トランシーバー〉で会話する時の決まりなのだ。

〈トランシーバー〉は2台が1セットで売られていて、友達に1台渡し、特に意味もない会話を交わして遊んでいた。

電源は〈乾電池〉のみで、暫く遊んでいるとすぐに電池がなくなるので閉口した。

それでなくても電波が届き難い〈トランシーバー〉なのに、電池が弱くなってくると、5・6m離れただけで「ザーザーピーピー」と雑音が酷くてお互いの声が聞き取り難くなった。だからいつでも新しい乾電池が欲しいのだが、少ない小遣いではそうそう買えないのだった。こんなことなら、いっそ〈糸電話〉のほうがマシだと思ったりした。

・・・・・・・

その頃、僕の兄貴は、確か〈アマチュア無線〉の中では1番初級ではあるが、〈電話級〉とかいう免許を取ってそれを趣味にしていた。

「ハローCQ、ハローCQ、こちらJA〇★◎☆▲■・・」

とかなんとか言って、よく見知らぬ人と交信していた。

〈電話級〉といっても兄貴が使っている〈無線機〉は本物で、何キロも先の人と話が出来た。

・・・・・・・

片や、新品の電池を入れて〈ロッドアンテナ〉を目一杯伸ばしたところで10mくらいしか電波が届かない僕の〈トランシーバー〉・・

兄貴の〈無線機〉を羨ましく思いながら、もしもこの〈トランシーバー〉に電話のダイヤルが着いていて、世界中と話が出来たらどんなに素晴らしいだろうかと、友達と夢のような話をしたことがあったが、今ではそれどころか、何でもありの〈スマホ〉なるものが出現してしまった。

〈スマホ〉をあの当時の僕達が手にしたならば、一体どんな反応を示したのだろうか・・・

もう、完全に映画〈バック・トゥー・ザ・フューチャー〉の世界である。

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