No.445【プライド】

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若い時の父は剛毛だったのに、50代に入った頃からだろうか、徐々に寂しくなっていった。

還暦を過ぎるとトップが薄くなって地肌が透けて見えるようになった。

80歳を越えると、頭の上半分は完全な無毛地帯で、耳の回りと後頭部に弱々しい髪が辛うじて残っている、といった感じになった。

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晩年のある日、父を床屋に連れて行ったことがある。散髪が終るまで、僕は近くのショッピングセンターで買い物をしたりして適当に時間を潰した。

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もうそろそろ終っているだろうと思って、父を迎えに床屋に向かった。床屋の駐車場で待っているとじきに父が出てきた。

クルマを降りて父のところまで行く。するとなにやらブツブツ言っているのだ。

「クソ~っ!坊主にしやがって~っ❗️」

「えぇっ!ボウズ?」

「おうよっ❗️見てみぃ!」

父はそう言うと後頭部を撫でた。

僕は父の後頭部を見た。

「はぁ~?・・・こんなもんでしょ」

すると父が言う。

「ボウズになっとろうがっ❗️」

そう言われれば残された髪がいつもより短いような気がしないでもないのでその旨を父に伝えた。

「そう言われたらチョッと短いんかねぇ・・でもいつもと殆んど変わらんと思うけどねぇ」

すると父は憤慨して言うのだ。

「いいやボウズにしやがった!ボウズにせえとは言うとらんどっ❗️・・・」

日頃からほぼボウズのような頭なんだから、そんなに怒らなくてもいいのになぁ、と思うのだが、ハゲのクセに〈ハゲなりのプライド〉というものがあったんだと認識せざるを得なかったのである。

ところで、還暦を過ぎたかく言う僕も、トップが少しずつ少しずつ寂しくなってきいる。父ほどには酷くないにも拘わらず、〈ハゲ〉の気持ちが少しは分かるようになってきた今日この頃なのである。

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