No.480【勇み足】

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今でこそ、飲食店での〈おしぼりサービス〉はあまり見掛けなくなったが、バブル経済の時代には喫茶店やファミレスでも、必ず〈おしぼり〉をサービスしていた。

僕がアルバイトをしていたファミレスでも〈おしぼり〉を出していた。ポリエチレン製の半透明の袋に入った〈おしぼり業者〉からリースしているものだ。

僕の勤務時間帯は深夜だったので、若い女の子や学生のバイトはいなくて、成人男性の勤務者が殆んどだった。ところがその中に、訳ありのオットリ主婦と、気が強い未亡人との2人の女性が、仲良くコンビでシフトインしていた。

その夜も忙しい接客が続いていたのだが、3時を回った頃に、珍しくノーゲスト状態になったのだった。

《やれやれ、やっと休憩が取れるかなぁ・・休憩に入る前にダストボックスのゴミでも捨てておくかぁ》

そう思ってダストボックスに手を掛けようとした時、ふとおしぼりが入っていたポリエチレンの袋に目が留まったのである。

僕は袋を1つ手に取って裏表をひっくり返し、バックステーションのテーブルの上にある、予備のコーヒーフレッシュポットから〈白いフレッシュミルク〉を袋の中に垂らし込む。

それを親指と人差し指で摘まんで、未亡人の女性のところへ持っていった。

「はい、これあげる~」

すると未亡人の形相が険しくなったかと思った瞬間に平手が飛んできた。

「パ~~~ン❗️」

それは僕の左頬に見事に命中して実に派手な音がホール中に響き渡った。

「バカにしないでよっ❗️」

僕は左手で頬を押さえながら謝るしかない。

「ごめんなさいっ❗️・・・ちょっとした悪戯だったんですよ~おしぼりの袋にフレッシュを入れただけです~」

すると未亡人が慌てるように言った。

「えっ? ❗️本物じゃなかったの?アタシ、てっきり本物だと思っちゃったのよ~ごめんなさいね❗️」

ホールの連中は腹を抱えて笑っている。

それにしても、いくらなんでも本物な訳がないではないか・・・悪フザケが過ぎたとは言え、強烈な平手打ちには参った・・・

若い頃の、実にトホホな想い出なのである。

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