No.8【オレにまかせろ】

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勤めていたホテルは有名なシティホテルだったので、役員はといえば、大企業の幹部や政治家につながるような大物ばかりだった。
そのホテルでは、何ヶ月かに一度の割り合いで役員会が開かれていて、その都度10名ばかりの役員が集まっていた。
その日は役員会の日で、担当のウェイター数名は朝から少し緊張している。
さて、会議の後には懇親会があるのだが、その日のメニューはフレンチのコースで、ロゼシャンパンで乾杯をする段取りになっていた。
5名5名が対面する形で長テーブルが置かれ、真っ白いテーブルクロスの上には、フルコース用のシルバー、グラス、ナプキンなどがセットされている。そして乾杯に使われる細くて背の高いフルートグラスがひときわ存在感を主張していた。
乾杯に使われるシャンパンはロゼシャンパンで淡いピンク色をしている。注ぐ時にクロスにシャンパンをこぼしてはならないと、ウェイター達は気を揉んでいた。特に今日はフルートグラスなので飲み口が凄く小さくて注ぎ難いうえにロゼシャンパンときている。こぼしたらテーブルクロスにピンク色の滲みが着いてしまうのだった。
「誰だよ❗️フルートグラスにロゼシャンパンって決めたのは!支配人か?」
「オマケにフルートグラスにシャンパン注いだら泡が盛り上がってすぐに溢れちゃうんだよ」
ウェイター達はブツブツと小言を言っているのだが、当の私も同感であったし、朝から体調がよくなかったので、はたしてシャンパンを上手く注ぐ自信がなくて、できればサービスを外れたかったほどだったのだ。
そんな浮かぬ顔色を見た同僚が声を掛けてきたので、実は体調がよくない旨を伝えたのだった。
「なんだ、ダメだなぁ。体調が悪いことにして、シャンパンから逃げてんじやねえのかぁ?しょうがない、シャンパンを注ぐとこだけオレにまかせろ」
私はまかせることにした。
やがて懇親会がスタートし、いよいよロゼシャンパンを注ぐ時がやってきた。代打の彼はグラスの上でシャンパンボトルを傾け始めたのだが、初っぱなからグラスの口を外して注ぎ、挙げ句には注ぎ過ぎて泡が溢れ、ロゼシャンパンは真っ白いクロスに向けて落ちていったのだった。

な~にがオレにまかせろだ馬鹿ヤロウ‼️

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