No.495【川の中の手】

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小学生の時、危うく川の深みに嵌まって溺れそうになったことがある。

当時、まだ学校には〈プール〉などはなくて、子供たちは皆んな川に泳ぎに行っていたのだ。

町内会の親達が、順番制で〈監視員〉をやっていたのだが、数年に1回くらいは溺れ死ぬ事故が起きていた。

運悪く、その時に〈監視員〉の当番が当たっていた人は責任を感じて苦しむことになったのだが、まだまだおおらかな時代だったので、皆んなが寄って集って吊し上げるようなことはしなかった。

・・・・・・・

さて、僕はその日も泳ぎに来ていた。

その頃の川には、確か〈チンショウ〉とか言って、川の底の何ヶ所かに深い穴が掘ってあった。何のためなのかは知らない。

だから学校の先生も〈チンショウ〉の近くでは泳がないようにと注意をしていた。
ところが、夢中になって泳いでいる子供たちが場所を確かめることはないし、どこに〈チンショウ〉があるのかもよく分からないのだった。

そしてどいう訳か、その日の僕には妙に冒険心が湧いていて、〈浮き輪〉を持たずに少~しだけ沖に出て泳いでみることにした・・

ところが、水面が顎の下までくるところまでやって来た時、足がズルッと滑って深みに落ちそうになった。〈チンショウ〉だ。

慌てて岸の方へ帰ろうと両手で水を掻いていると、深い水の奥から誰かの〈手〉がギュッと僕の右足首を掴んで引っ張った。

引っ張られた僕の身体は水中に沈んで息が出来なくなった。このままでは溺れてしまう。

必死で両手を振り回したら、僕の前に立っていたオネエサンのお尻辺りの水着に手が引っ掛かったので、思いっきり引っ張った。

そうして、なんとか深みから逃れることが出来たのだった。

オネエサンには「ナニするのよっ❗️」って怒られたのだが、命が救ったのだから、そんなことはどうでもよかった。

それにしても、誰もいないはずの深みから僕の足首を掴んで引っ張った〈あの手〉は何だったんだろうか・・・

少年時代の不思議な体験なのである。

※(沈礁:チンショウ)根、岩場、岩礁帯の総称。この沈礁には魚がよく集まるので釣りのポイントとなる。

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