No.526【糠漬け】

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今では美味しく頂いているが、本当は〈糠漬け〉があまり好きではなかった。

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僕が生まれる前のことである。

その頃、大概の家では大きな桶に沢山の漬物を漬けるのが普通で、ウチでも、祖母と嫁の2人で〈糠漬け〉や〈白菜や青菜の浅漬け〉を漬けていたそうだ。

ところがある日のことである。祖母たちは〈糠床〉が血のように赤くなっていることに気が付く。こんなことは初めてだ。

おかしい、変だと思いながら数日が経った頃だった。

肺病で臥せっていた嫁の亭主・・祖母の息子が、29歳という若さで息を引き取ったのである。

祖母と嫁は悲嘆に暮れた。

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血のようになった〈糠床〉は死を予言していたのだろうか・・・・以来、気味悪がって家では漬物を漬けなくなった。

暫くして〈糠漬け〉以外の漬物は復活したそうだが、こと〈糠漬け〉に限っては全くのタブーとなった。

さて、主人に先立たれた嫁は、産まれた男の子を抱えて悲しんでいたが、死んだ亭主の弟が、母子を引き取る形で結婚をした。

そうして最初に生まれたのが僕なのだが、僕が成人する頃になっても、母が〈糠漬け〉を漬けることは無かった。

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そういう訳で、僕は物心付いた頃から〈糠漬け〉を食べたことがな無かったのだ。
ウチで食べる漬物と言えば〈白菜漬け〉〈野沢菜漬け〉などに限られた。

だから〈糠漬け〉の味を知らずに育った僕は、実際〈糠漬け〉が苦手だった。

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後年〈糠漬け〉を食べるようにはなったのだが、結局、味に慣れるまでに、数十年の年月が必要だったのである。

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