No.533【酢の物】

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小鉢に、大根だろうか?蕪だろうか? 旨そうな〈酢の物〉が盛り付けてある。千切り昆布と鷹の爪の輪切りが乗せてあったりしてなかなかセンスがいい。

焼酎のオンザロックを飲りながら、どれどれ、一箸つまんで食べてみる。

「・・・ん~~これ〈大根の酢の物〉かぁ?もうチョッと酢を足したほうがいいんじゃないかぁ?」

すると家内が言うのだった。

「父さん、それ〈酢の物〉じゃないよぉ、塩揉みだよ~」

「えぇ~?〈酢の物〉の味がしたけどなぁ」

「酢なんか入れてないよぉ~醤油かポン酢か好きなほうで食べて~」

白い磁器の小鉢の底に、懐石料理のように品良くひと摘まみ盛り付けてあるのだから、〈酢の物〉にしか見えなかったのだ。ビジュアルが完璧な〈酢の物〉なのだ。

しかし見た目から脳が〈酢の物〉だと認識してしまうと、全く酢が入っていないにも拘らず、酸味を感じてしまったのだ。

料理は5感で食べる、なんていうことを聞いたこともあるが、〈視覚〉だけで〈酢の物〉だと決定した僕の脳は〈味覚〉に錯覚を起こさせてしまったようだ。

人間の感覚なんて、案外、危ういものなのかもしれない。先入観1つで狂ってしまうのだ。

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