No.542【高野豆腐】

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子供のころに母が作ってくれた料理の1つに〈高野豆腐〉がある。〈凍り豆腐〉ともいうようだ。

三角に切った〈高野豆腐〉と、乱切りにした〈和人参〉、丸ごとの〈干し椎茸〉を砂糖と出汁で炊いたヤツだ。大皿で食卓の真ん中にドンと出される。小鉢に盛り付けて〈絹サヤ〉で飾り付けるなんて小洒落たことはしない。

しかし大人達には受けが良くても、あの甘ったるい〈高野豆腐〉は、ドダイ僕たち子供が喜んで食べるようなものではなかった。

特に〈干し椎茸〉の匂いが苦手だったからなのか、ついでに〈高野豆腐〉も嫌いになったのだと思う。

ところが不思議なもので、どういう訳か、ここ数年前から〈高野豆腐〉が好きになったのである。なんなら〈大の字〉を付けても構わないくらいである。タマには〈酒の肴〉にする程なのだ。

尤も酒呑みの〈アテ〉なんだから味付けは甘くない。出汁でサッパリと炊く。他の具材は一切使わない。

先日、買い物に行った時に、暫くのあいだ食べていなかった〈高野豆腐〉のことを思い出したので買って帰ることにした。

安い物を選ばないと必ず家内の監査が入るので要注意だ。〈高野豆腐〉といえども、上級品はそれなりの値段なので侮れないのだ。

「〇子~・・これにするかぁ?」

「えぇ?・・あっ!それ、こないだイマイチだって言ってなかったぁ~?」

「そうかぁ・・じゃぁここら辺りでどうじゃ?」

「それ、美味しいの?・・食べてみないとねぇ・・今日は思いきって高いの買ってみる~?1回だけ」

「同んなじ〈高野豆腐〉だろ?そんな大差は無いと思うけどなぁ」

「試しに食べてみたらぁ?」

「そうしてみるかぁ」

そういう訳で、ルービックキューブみたいな四角いパッケージの〈高野豆腐〉を買うことになった。

[ 旭松食品 ]という、なんでも有名メーカーの物で、5枚入りが¥194―のチョッとだけ上級な〈高野豆腐〉である。

・・・・・・・

その日の晩酌の〈肴〉は〈高野豆腐〉になった。

早速、家内が炊き立てを出してくれた。


「はいっ!父さん出来たよぉ」

「おっ! ありがとう・・どれどれ・・と」

「・・・どぉ?」

「おっ❗️ こりゃ旨いぞっ❗️」

「そ~ぉ❓️❗️」

「こないだのとは全然違うわ!」

「へ~ぇ」

・・・・・・・

どうやら〈高野豆腐〉を軽く見ていたようだ。

普及品と上級品の口当たりには〈デニム生地〉と〈シルク生地〉程の差があったのである。

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