No.583【東京土産】

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お隣さんからまたお土産を頂いた。

老夫婦が亡くなられてから、お隣の家は久しく空家になっているのだが、家に風を通す為に、東京にお住まいの長男さんが年に何度かは帰ってこられる。

その度に必ず下さるお土産が〈ごまたまご〉というお菓子なのである。

〈ごまたまご〉以外のお土産を頂いたことは只の1度もない。必ず〈ごまたまご〉なのだからそのポリシーたるや凄いものがある。

・・・・・・・

もう十数年も前になるだろうか、東京出張の帰りに、僕は同僚と2人、東京駅の八重洲口の地下で搭乗する新幹線の時間待ちをしていた。

座っていたベンチの前には俄か仕立ての2軒の出店があって、片方では〈東京ばな奈〉を、もう片方でも何かのお菓子を売っていた。

〈東京ばな奈〉は、当時から東京土産の定番として有名だったが、もう片方で売っている御菓子は初めて見るものだ。

見れば幟が立ててあって〈東京たまご・ごまたまご〉と書いてある。

ところが、人々は〈東京ばな奈〉のほうにばかりに群がっていて〈ごまたまご〉のブースは閑古鳥が鳴いているのだ。

同僚が言う。

「なんか〈東京ばな奈〉ばっかり売れてるなぁ」

「そうだよ、〈ごまたまご〉のほうはサッパリだなぁ」

「買ってあげたいけど、俺、もうお土産買っちゃったしなぁ~」

「そうかぁ・・しゃあない。僕が1つ買ってあげようか」

僕は〈ごまたまご〉の出店の前まで行って声を掛けた。

「1つくださ~い!」

すると売り子の女の子が大いに喜んだ。

「はいっ❗️ありがとうごさいます❗️お客様が本日はじめてのお客様です~ありがとうごさいます!新発売なんで、まだ知名度が低くて・・・」

「えぇっ⁉️ 僕が今日の第1号なんですか❗️」

どうりで喜びようが派手だと思った。

そんなことがあってから、またベンチに戻って新幹線の時間を待っていたのだが、僕が買ったのがキッカケになったのかどうかは知らないが、それ以降〈ごまたまご〉がボチボチ売れ始めたのだった。

丸でサクラになったような気分であった。

・・・・・・・

あれから数十年が経った今、〈ごまたまご〉は〈東京ばな奈〉にも負けない程のメジャーなお菓子に成長を遂げて、今日もお隣さんから届いている。

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