No.593【3畳とラジカセ】

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東京北区滝野川の3畳1間のアパートで貧乏生活をしていた頃である。

アルバイトで稼いだ金を貯め、秋葉原のビックカメラでラジカセを買ってきた。

〈日本マランツ社〉の「ブスタング」という名前の、小さいけれどもハイパワーだという触れ込みのラジカセだ。

小さなシンクと押入れしかない部屋に、初めて家電品が加わったのだ。

小柳みゆきという、ちょいブスタレントが、そのラジカセのイメージキャラクターだったことを、どういう訳かハッキリと覚えている。現在は小柳友貴美という芸名で女優をしているらしい。

せっかく買ってきたラジカセなのに、それを聴くカセットテープを僕は少ししか持っていなかった。その中にカラヤン指揮、ベルリンフィル演奏の〈ベートーヴェンの「第9」〉があった。

当時、まだ「第9」をそんなに聴き込んではいなかったので、僕はその素晴らしさを理解していなかった。というかあまり好きではなかったのだ。

クラシック音楽はまず聴き込まないことには良さが解らない。だから「第9」を自分のものにしようと何度も何度も聴き込んだ。

そうして「第9」は徐々に体に染み込んでいって、大好きな交響曲の1つになった。

・・・・・・・

そして、今でも低い弦の音で始まる「ベートーヴェン第9」の導入部分を聴くだけで、あの3畳の部屋とラジカセの情景が蘇ってくるのである。

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