
ドライブの途中で立ち寄った〈ワイナリー〉で、家内が大好きな〈赤ワイン〉を買って帰った。
今日はそれを飲むことにした。
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若い頃、ホテル勤務をしていた時に使っていた〈ソムリエナイフ〉を取り出してきてコルクを抜くと、早速ワイングラスに注いでいく。
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「白ワイン」は冷して飲むが、「赤ワイン」は常温で飲むのがいいとされている。「赤ワイン」は常温のほうが風味を感じられるからだという。
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口に含んでみる。
「・・・ん~~中々いいけど僕にはチョッとだけ甘いかなぁ?」
「えぇ~?アタシはこれくらいが丁度いいわ・・父さん!嫌ならアタシが全部飲んだげる~」
なんだかんだと言いながら飲んでいるうちに、ボトルが空になってしまった。
すると空っぽになったボトルの底を見詰めながら家内が言う。
「父さん、瓶の底が変な形してるんだね・・・富士山みたいに盛り上がってるけど・・」
「あぁ、そりゃ〈澱〉を底に集めるためにそうなっとるんじゃ」
「オリってなに?」
「沈澱物のことじゃ・・赤ワインは皮や種も一緒に醸造するからなぁ、そんなもんが〈澱〉になって瓶の下に溜まるわけよ」
「んで、富士山の形した底と関係あるの?」
「うん・・底が平らだったら〈澱〉が瓶の底全体に拡がって沈むだろ?」
「そうだよね」
「そうなると、ワインを注ぐ時に〈澱〉が浮き上がって全体に混ざりやすくなってしまうわけだ。だから底を富士山のようにして、裾野の部分に〈澱〉を集めるようになっとるんじゃ。輪っかみたいに溜まって〈澱〉が浮き上がり難いってことだな」
「へぇ~そうなんだぁ」
「ま、〈澱〉を一緒に飲んだっていいんだけど、渋味やら雑味があるからなぁ」
「父さん、ホテルマンだったから詳しいわね!」
「いやいや、僕はBarの部署じゃなかったから大したことないけどな・・ワインは〈ソムリエ〉が専門家だからなぁ」
「あぁ〈ソムリエ〉ね!」
「〈ソムリエ〉がやってたけど、「赤ワイン」を空気に触れさせるためにさ、別のワインデキャンタに1回移し替えるんだぞ・・そうすると口当りがまろやかになって薫りも良くなるって言ってたなぁ。〈デキャンタージュ〉って言うんだけどな」
「へぇ~」
「移しかえる時に最後まで注がないんだ。ボトルに少し残すんだよ」
「なんで?それ、どうするの?」
「捨てるんじゃ」
「えぇっ❗️勿体ないじゃん❗️」
「いやいや、富士山の裾野に溜まったワインは〈澱〉が殆んどだから捨てるんだよ」
「あぁそうなんだぁ~そりゃそうと、ワインデキャンタ?・・それに入れ替えたらどんなワインだか分からないでしょ?お客さんに」
「だから始めに〈ソムリエ〉がボトルをプレゼンテーションしてからデキャンタに移し替えるんだよ」
「しかし、やっぱりホテルは贅沢だわねぇ!アタシだったら〈澱〉も一緒に飲むわよ!勿体ない」
「そりゃ貧乏人の発想じゃ」
「どうせ貧乏人ですよ~だ❗️」
そう言いながらも、大好きな〈赤ワイン〉にホロ酔い加減の、誠に上機嫌な家内なのであった。
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