No.651【講演】

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先日、人前で話をする機会があった。

その〈講演〉は半年前から決まっていた。ただ全く想定外の依頼だったので、出来れば断りたかったのに、成り行き上でそれが出来なかったのである。

当然、ずっと気になっていて、早く原稿を書かなければと焦る気持ちはあっても、案の定、原稿が出来上がったのが、講演の僅か1週間前であった。

会場は大阪のど真ん中にある大きな施設だった。

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流石に、前日は気分が高揚してしまって、夜中に何度も起きては原稿の細かいところをチェックし、声を出して練習をした。

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そして、とうとうその時がやって来たのである。

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〈講演〉が始まった。

「期待しています❗️」という依頼者の顔に泥を塗る訳にはいかない。僕は覚悟を決めて演台へと上がっていった。

コロナの関係から観客の数が多くないこともあってか、僕は殆んど平常心で話し始めることが出来た。〈つかみ〉の笑いも取れた。聞かせるところは聞かせることが出来た。数ヶ所にちりばめた〈下ネタ〉も受けた・・・

・・ように感じたのだけれども、話すことに集中していることと、原稿を見るために掛けている〈老眼鏡〉によって、観客席側がピンボケてハッキリと見えないのだ。だから観客の反応を、100%把握することが出来ないのだった。

そして、〆の前に入れた最後の〈エロネタ〉の反応がイマイチよろしくないのである。シ~~ンとしてリアクションが無い。

〈あぁ、これは流石に下品過ぎてスベったかな・・〉

それでも頑張って、最後の挨拶を決めた後、なんとか〈講演〉を終えることが出来たのである。

〈さて、出来映えはどうなんだろうか・・・〉

最後の失敗が気になって後悔の念が尾を引くばかりであった。

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控室に戻ってすぐに〈スマホ〉を取り出し、録音しておいた〈講演〉を恐る恐る聴いてみた。

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「・・・えぇ~~ただいまはぁ・・」

スマホから第一声が流れ出て来る。

いつ聴いても自分の声というものは変に聴こえるものだ。

〈僕の声って、こんなんかぃ?変な感じだし、なんだよこの言い回しは・・〉

端からショックを受けて気分が滅入ってしまった。

〈やっぱりパッとしない講演だよなぁ・・〉

それでも最初の〈つかみ〉ではシッカリとした笑いが取れているし、自分の声にも慣れてきたこともあって、最後まで聴いてみる勇気が湧いてきたのであった。

そして、聴衆の側に立って録音を聴いてみると、講演中にはよく聞き取れなかった会場の笑い声や盛り上がりの声が録音されているのだ。

〈なんだ!けっこう受けてるじゃないかっ❗️〉

僕はなんだか嬉しくなってきて、録音をもう1回聴いてみようかなぁ・・なんて気持ちになるのだが、そんなことは単なる〈ナルシズム〉に決まっているのである。

なにはともあれ、なんとか終ることが出来たのだ。肩の荷が下りてホッとした。帰ってから飲む〈ビール〉が待ち遠しいばかりであった。

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