No.60【引出物】

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ホテルの宴会部門では多くの料理を提供しなければならないのだが、その料理には2種類の盛り付け方がある。
初めから皿や器に盛り付けた料理を「皿盛り」と呼んでいるのだが、和食は基本、殆んどが皿盛りである。中華はテーブル人数分を大皿に盛ってラウンドテーブルに料理を提供するのが一般的だ。
さて、問題は洋食である。皿盛りが基本ではあるのだが、料理数が膨大になると皿盛りには限界が生じてくるのだ。
例えば、アントレ(肉料理)の場合だ。これは温かい料理であるが、多くの肉料理をひとつづつ皿盛りにしていたのでは、作った端から冷めてしまうし、第一間に合わない。予め作っておいた皿盛り料理をホットカート(温蔵庫)に入れておいて、そこから提供することもあるが、それでも数に限界がある。
では大量の料理を冷めないように提供するにはどうするのか・・・
まず、火傷しそうなくらいに前もって温めておいた皿を、自分の担当テーブルのお客様の前に人数分撒いておく。
そうしておいて、あとからプラッター(銀器のお盆)に、担当人数分の肉やガルニチュール(付け合せ)が乗せられたものを、サーバー(大き目のスプーンとフォーク)で取り分けて皿に盛り付けていく、という方法を採るのだ。プラッターは左の手の平に乗せて持ち、サーバーは右片手で箸のように使う。これを「持ち回りサービス」という。
あらかじめ焼いてある肉はバックヤードでホットカートから出すので熱いままである。
この持ち回りという手法はデセール(デザート)にも使われる。
・・・・・・・・・
その日のデセールはメロンだった。プラッターにクラッシュアイスを敷き詰めて、その上に8個から10個のスマイルカットにされたメロンが乗っている。
そのウェイターは冷えた皿をお客様のテーブルに人数分撒いたあと、左手にメロンのプラッター、右手にサーバーを持って再びお客様のテーブルまでやってきた。
「失礼いたします」
そう言ってメロンが乗った左手のプラッターを皿の上に持っていき、サーバーで掬い取ったメロンを順々に皿に配っていったのだが、プラッターの上の溶けたクラッシュアイスの水が、手前に傾いたプラッターの端からお客様の脚元に置いてある引出物袋の中にザ~ッと流れ落ちている。それを見たお客様が文句を言った。
「おいっ!君っ!なんだこれはっ!」
ウェイターは悲惨な状態の引出物を見ながらこう答えた。
「はっ!引出物でございます」
「なに~っ!そんなこたぁ~分かってるんだよ!引出物が水浸しじゃないか!なんだその言いぐさは!支配人を呼んでこい!」
客は激怒した。
・・・・・・・
やって来た支配人はお客様に平身低頭に謝罪をした後、そのウェイターがこっぴどく叱られたことは言うまでもない。

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