No.163【おクルマの移動】

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ファミレスで仕事をしていた時のことである。

レジに立っていた僕の所へ女性のお客さんが駆け寄ってきた。

「すいません!クルマを出そうとしたら、他の人のクルマが邪魔してて出られないんですけど・・・」
「あぁそうですか。移動して頂きますので少々お待ち下さい」

そう言って外の駐車場に出て、問題のクルマのナンバーを確認した。無造作に駐車されたそのクルマは高級乗用車だった。

店内に返ってすぐにマイクで呼び出しを掛ける。

「お客様にお知らせ致します。〇〇33の〇〇〇〇のおクルマでお越しのお客様、恐れ入りますが、おクルマの移動をお願い申し上げます」

すると、レジ近くの席から、横柄そうな中年男性が大きな声を出して僕を呼びつけ、クルマのキーを突き出してこう言った。

「おいっ❗️俺のクルマだっ❗️お前が動かしとけっ❗️」
「あっ!あの~高級車ですけど、私が動かしてもよろしいんですか?」

僕は確認した。

「つべこべ言わずに動かしとけっ❗️俺ャァ飯食ってんだ❗️」
「はい、かしこまりました」

そう言ってキーを受け取った。

ドアの鍵はキーのリモコンボタンで開いた。そして恐る恐る運転席に乗り込んで、ボタンを押してなんとかエンジンを掛ける。流石に静かなエンジン音だ、というよりも殆んど音がしていないではないか。

《さて、パーキングブレーキを解除して・・・と・・ん~?レバーが無いなぁ・・・フット?・・外れないなぁ・・・・》

ブレーキの外し方がどうしても分からないのだ。そのクルマは電動パーキングブレーキ仕様だったのだが、知る由もなかった。

待っているお客さんもいる。

《えぇ~い、もういいや!》

僕はもうそのまま動かすことにした。

「バキッバキバキッ❗️」っと音を立てながらも、その高級車は動いた。

《流石に排気量が大きいエンジンだけはあるなぁ、すげートルク❗️》

妙な感動を覚えながら、何とか邪魔にならない所への移動が終わったのだった。

・・・・・・・

「移動、終わりました。キーをお返し致します。有り難うございました」

そう言って中年男性にキーを返した。

《あぁ~なんの問題もなく移動出来てよかった~》

なんの問題もない訳がない。

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