No.162【シャブリ】

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その日は、ホテルの役員会があった。会議の後には会食が催される。メニューはフレンチのコース料理だった。

裏方を含めて数人の担当ウェイターが、10名の役員に料理と飲み物を提供するのだが、会場内で直接サービスをするのは2名である。

2名の内の1人に選ばれた私は、前もってメニューの確認をしたり、提供するワインのチェックなどをして会食が始まるのを待った。

・・・・・・・

やがて会食がスタートした。

シャンパンでの乾杯からはじまって、オードブル、スープ、バケットのサービスへと順調に料理が出されていった。バケットの次はポアソン(魚料理)なのだが、その前に、白ワインをサービスする。

サイドテーブルのワインクーラーから、予め準備していたシャブリを手に取って、もう1人のサービス員とテーブルを挟んで向き合い、一礼をして、それぞれが5名づつにワインを注いでいく。

「失礼致します・・」

そう言って私はワイングラスの上にボトルの口を持っていった。

《・・・ん?・・ワインが出ない》

「君ぃ~、コルクが抜いてないぞ」

その役員は笑いながらそう言った。あれだけ下準備をしたはずなのに、コルクを抜くのを忘れていたのだった。

「はっ❗️申し訳ございませんでした。大変に失礼致しました❗️」

私は一旦サイドテーブルに戻り、速やかにコルクを抜いてサービスに戻ったのであった。
私のホテル勤務時代の、誠に情けない思い出の1つなのである。

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