No.184【ツバメの子】

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僕が小学生の時である。

ウチには毎年ツバメがやってきては軒先に巣を作っていた。

卵が孵化すると、数羽の雛が黄色い嘴を大きく開けては親鳥が運んでくる餌を食べた。よく食べるので糞もよくした。だから巣の下に敷いてある段ボールが、取り替えても取り替えてもすぐに糞だらけになった。

ある日、その糞だらけの段ボールの上に1羽の雛が落ちていた。ツバメの子育て中にはタマにあることなのだが、その都度、巣に戻してやる。その雛も巣に戻してやろうと、脚立を持ってきて巣の中に入れてやった。ところが暫くすると、また下に落ちているのだ。何度か試みたのだが落ちてくる。

《この子は嫌われものなんだろうか?親鳥にも他の雛たちにも受け入れられないようだ・・よしっ❗️仕方がない。こっちで育ててやろう》

ツバメを飼うことは法律上マズイことなのかもしれないが、家族の皆んなも可哀想だと言うので育てることになった。

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〈チビ〉と名付けられたその雛は、家族が与える虫を喜んで食べてくれた。よく懐いて逃げもしないので籠に入れる必要もなかった。〈チビ〉の家は、上が空きっぱなしの箱だった。底にはタオルを敷いてやった。

少し飛べるようになった頃、蠅叩きで蠅を叩くと、パタパタと不器用に飛んで来ては、ピョンピョンと蠅の前まで行き、自分で蠅を食べた。もう家族には掛け替えのないアイドルになった。

父が仕事から帰ってきた時、〈チビ〉へのお土産だと言って、蜂の子を持って帰ってきたこともある。

面倒を見始めてから1ヶ月近くも経った頃だろうか、〈チビ〉はすっかり大きくなって、普通に飛べるまでに成長した。

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それは突然やってきた。

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〈チビ〉がいなくなった。

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家の中は灯が消えたように寂しくなった。家族のショックは計り知れなかった。

《猫に食べられたんじゃなかろうか・・いや、皆んなのところに帰っていったんだ・・大丈夫、きっと生きているよ・・・》

家族でいくら励まし合っても、心の空洞を埋めることなど出来なかった。

〈チビ〉はもういない。

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