No.316【壺】

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その友達とはよく遊んでいた。〈ビー玉〉や〈かくれんぼ〉や〈キャッチボール〉に飽きたら、皆んなでよくソイツん家に行っては〈トランプ〉や〈ボードゲーム〉をして遊んだ。

ソイツん家は〈呉服屋〉をやっていたので、店の玄関から入ることは遠慮して、いつも裏の勝手口からお邪魔していた。勝手口を入るとそこは土間になっていて、夏でもヒンヤリとして気持ちが良かった。土間の回りには昔ながらの〈オクドサン〉があって、木の棚には〈砂糖の壺〉や〈塩の壺〉が並んでいる。そして中庭には〈井戸〉もあった。

・・・・・・・

その日も皆んなでソイツん家に行くことになった。
いつものように裏に廻って勝手口から入って行く・・・

「❗️」

すると誰かが〈砂糖壺〉を抱えて砂糖を舐めている。ビックリして皆んなが声を挙げた。

「わ~っ❗️」

「誰じゃ~~っ❗️」

「泥棒じゃ~~っ❗️」

驚いた泥棒は〈砂糖壺〉を放り出して脱兎の如くに勝手口から飛び出して行った。

「おいっ!顔見たかぁ?」

ひとりがそう言った。どこかで見たような顔だった。

「見た見たっ❗️あれ、5年生の〇〇くんじゃっ!」

「そうじゃそうじゃっ❗️」

「5年3組の〇〇くんじゃっ❗️」

犯人は1級上の5年生だった。

・・・・・・・

当時の子供達は、飽食の現代のように〈おやつ〉を沢山食べられる訳ではなかったので〈砂糖〉を舐めたい気持ちは充分に理解出来た。

だからと言って他所ん家の砂糖を舐めていい訳はないのだが、同じ小学校ということもあって、そのことは誰も口外しなかった。学校で顔を合わせることがあっても、武士の情けの精神で知らないフリをした。

ただ、〈砂糖ねぶり〉という称号だけは密かに囁かれ続けたのである。

(ねぶる:中国地方の方言で舐めるという意味)

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