No.336【邂逅の夏③】

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だいいち〈お見合い〉で話が盛り上る訳がないのである。

「・・・・・・・」

「・・・・」

すると、肩が凝りそうな空気を打ち破るように、その家の奥さんが大きな声で提案をした。

「はいはいっ❗️ねぇ!ここで座っててもしょうがないから、2人にはどっか外にでも出て行って貰ってユックリ話をしてもらったらどうですかっ❗️」

すると助け船が来たとばかりに同意する言葉が交差 した。

父親が言う。

「おう、そうじゃそうじゃ、どっか行ってきなさい」

先方のお母様も追い討ちを掛ける。

「そうそう、〇〇ちゃん!■■さんと2人で公園にでも行ってきたらぁ~?」

《これはヤバイことになってきたぞ・・初対面の女の子と2人でどっか行けって~ぇ?もう、いい加減にしてくれよ~》

そう思っても親たちの圧力には勝てそうもない。

・・・・・・・

こうなったからには、7つ歳上の男の僕が彼女をエスコートしなければなるまい。

僕は意を決して言った。

「・・じやぁ・・〇〇さんとチョッと出掛けて来ます」

父親がすぐに相槌を打つ。

「おう、そうしなさいそうしなさい」

するとお母様もノリノリでお嬢さんを促した。

「〇〇ちゃん、アンタ着替えた方がいいんじゃない?■■さん!ごめんなさい!娘を着替えさせますから少し待ってて下さいね、着物じゃ動き難いでしょうから・・」

「おう!■■よっ!2人で旨いもんでも食って来たらええよ」

父も追い出そうと加勢してきた。

30分も待たされただろうか・・彼女は白のワンピースになって現れたのだが、髪をアップしている時からソバージュ質ではなかったように見えた髪は肩に掛かるほどのボブになっていた。恐らくは親に言われて〈お見合い〉の為にストレートパーマでも掛けたのだろう。写真のイメージとは全く違った女性が目の前に立っていた。

・・・・・・・

そうして、小1時間で昼になろうかという頃、皆んなに見送られながら、2人は暑い夏の街に出掛けていったのである。

・・・・・・・

《さっき会ったばかりの男女が2人きりで〈デート〉をしなければならないなんて、丸で拷問じゃないか!》

会話が続かないのだ。それでも沈黙には勝てないのでなんとか話をしようと無駄な抵抗を試みる。

「あの~・・暑いですねぇ・・」

「はい・・・」

「まぁ、真夏ですからね・・」

「はい・・・」

彼女は俯いて頷くばかりである。よしっ!この際、喫茶店かレストランに入って昼ご飯でも食べることにするか・・・しかしこれとても、知らない女性と向き合ってランチを食べる姿を想像しただけで、息をするのが苦しくなってくるのであった。

彼女に訊く・・・

「あの~~」

「はい・・・」

「あの~昼になりましたね・・」

「はい・・・」

「何か食べますか?・・どっかレストランかなにかに入りましょうか?・・・」

「はい・・」

「・・・あっ!あそこに良さそうな店がありますよ!あそこにしましょう!」

「はい・・」

そうして「はい」しか言わない彼女と一緒にレストランに入っていったのだった。(つづく)

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