No.460【ピロシキ】

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若い頃、僕はファミリーレストランでアルバイトをしていた。

そのファミレスチェーンは、〈アンガス牛フェア〉とか〈イタリアンフェア〉とか、色々なフェアを定期的に開催していた。

その時は〈ロシア料理フェア〉だった。

〈ロシア料理フェア〉での人気メニューは、リーズナブルなことも手伝って、ロシア料理の定番〈ボルシチ〉と〈ピロシキ〉だった。〈ビーフストロガノフ〉のオーダーも結構あって人気があったのだが、少しだけ値段が張った分だけ〈ボルシチ〉と〈ピロシキ〉には水を開けられていた。

さて、その夜も〈ロシア料理フェア〉には沢山のお客様が来店して盛況を極めている。

僕が接客していた Aフロアも満席状態が続いていたが、やっと空席になったボックス席に、順番を待っていた大学生らしき若いカップルが座った。

僕はすぐに〈水〉と〈おしぼり〉と〈メニュー〉を持っていく。

「いらっしゃいませ!メニューをどうぞ・・お決まりになりましたらお呼び下さいませ」

と言って引き下がろうとしたら、彼氏の方に引き留められた。

「あっ! えぇ~~すぐに決めますっ❗️・・〇〇ちゃんなんにする?」

「えっ!・・ん~~とぉ・・じゃあ・・アタシ〈ボルシチ〉❗️」

「えぇ~?もっとなんか頼めよぉ・・・おっ!これこれっ〈ピロニシキ〉も食べなよ!」

「〈ピロシキ〉だよ!もぉ~~〈ピロニシキ〉だなんて、お相撲さんじゃあるまいしっ❗️」

「ハハハッ!」

「ハハハッ!じゃないわよ、ホント恥ずかしいわ・・ウェイターのオニイサンに笑われるよっ!すいません!コイツ馬鹿ですから」

僕は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

「・・いえ・・とんでもございません」

・・・・・・・

あの頃は、大相撲の〈小錦関〉が人気絶頂の時代だった。

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