No.567【万引き】

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ヨチヨチ歩きの小さい頃、1人で近所の駄菓子に歩いて行った僕は、並べられているお菓子の1つを手に取って店を出て行った。

と思ったら、またすぐに戻って来て、もう1つお菓子を取ってから、またヨチヨチと店を出て行った。

店番をしていたおばあちゃんはニコニコしながら黙って見過ごした。

家に帰ってきた僕は母親のところに行ってお菓子を1つだけ差し出した。

驚いたのは母である。

「まぁ、このお菓子どうしたん?」

するとカタコトの言葉が返ってきた。

「オニイタン・・・」

母はすぐに駄菓子屋に行っておばあちゃんに事情を訊いてみた。

「すいませんおばあちゃん・・ウチの子がお菓子を2つ持って帰ってきたんですけど・・」

「はいはい、さっきのぉ、来なさったでぇ。始めは1つ持って行きんさったが、またすぐ戻って来んさってなぁ、もう1つ持って行きんさったんじゃが、アンタんとこの■■くんじゃけぇ黙って見とったんですよ」

「まぁそうだっんですかぁ、すいませんでした❗️おいくらですか?」

「はいはい、5円のが2つじゃけぇ10円ですのぉ」

「じゃ・・はい10円・・・」

「はい、ありがとさんです・・始めは1コじゃったんじゃけど、戻ってきてもう1コ取りんさってのぉ」

「そう言や、オニイチャンって言ってましけど・・」

「ほうほう、オニイチャンのも持って帰りんさったか!オニイチャン想いの優しい子供さんじゃのぉ、ホホホッ❗️」

お兄ちゃんのが無いのに気付いて、もう1つお菓子を取って帰ったらしい。

店のおばあちゃんはそれを黙ってニコニコと見過ごし、そして後から親が代金を支払いに行くという。

昭和30年代の、敗戦後の空気がまだ色濃く残っていた頃ではあったが、人々の心はまだまだ豊かだった。赤ちゃんの1人歩きも出来たし、その子の〈万引き〉だって笑いながら見ているような、人情のある時代であった。

僕が物心付いた頃、母から聞かされた話である。

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