No.571【テープレコーダー】

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僕がクラシック音楽を好きになったのは小学5年生の時だった。

学校の音楽の授業で〈たて笛〉を習ったくらいで、取り分け音楽が好きだったという訳ではない。

きっかけは〈テープレコーダー〉だった。

ある日、中学生の兄貴が本格的なテープレコーダーを買って貰ったので、それまで使っていた、通販で買ったテープレコーダーをお下がりで貰ったのだ。

半分オモチャのような代物なのだが、生まれて初めての自分の〈テープレコーダー〉だ。嬉しくて仕方がない。

さて、早速、何かを録音しようと考えた僕は、持っていた6石トランジスターラジオの音を録音することにしたのだった。

コードで繋いだりはしない。ラジオのスピーカーを〈テープレコーダー〉に近付けて直接録音するのだ。だから録音中は静かにしておかないと周りの音も一緒に録音することになるので、息も潜めなければならなかった。録音することが嬉しかっただけで、録音するものは何でもよかった。

そしてその時に、たまたまラジオで放送したのが「ベートーヴェンの運命」だったのである。

首尾よく最初から最後まで全曲を録音することが出来た。

録音出来たことが嬉しくて嬉しくて、冒頭の「ジャジャジャジャ~ン❗️」くらいしか知らない「運命交響曲」なのに、訳も分からずに何度も聴いたのである。

ところが何度も何度も聴いているうちに、部分部分の良さが分かってくるし、あ~こんなに綺麗なメロディーだったんだ、とか、ここの爆発はオシッコチビりそうだとか、どんどん曲に引き込まれていったのである。

やがて感動の点と線が繋がってきて、1楽章から終楽章まで、こんなに凄くて美しくて力強い曲があるんだと目覚めた僕は、ベートーヴェン以外は音楽じゃない!っと思うくらいに、すっかりベートーヴェンに魅せられてしまったのである。

還暦を過ぎた今でもクラシック音楽好きは変わってはいない。〈モーツァルト〉も〈ブラームス〉も〈チャイコフスキー〉も〈シューベルト〉も〈プロコフィエフ〉も〈ドボルザーク〉も皆んな皆んな好きなのだが、ベートーヴェンから目覚めた僕の1番好きな作曲家は、やはりベートーヴェンなのである。

それこそ兄貴のお下がりの〈テープレコーダー〉にめぐり逢ったことが「運命」であって、それがなければクラシック音楽を好きになることもなかったのかもしれない。

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