No.626【外来魚】

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僕が小学生の頃である。

夏休みになると従兄がよく泊まりに来ていた。1歳年上のその従兄は魚釣りが大好きで、小学生にも拘わらず、大阪から中国地方の山あいにあるウチの家に、ひとりで遊びに来ていた。

そして彼の魚の知識は尋常ではなかった。まるで歩く図鑑のように、海、川を問わず、魚のことなら何でも知っている、謂わば元祖〈さかなくん〉のようなヤツだったのだ。

従兄と僕は、その日も川に魚釣りにいった。そして従兄が、見たこともない変な魚を釣り上げた。鮒に似ているのだが鮒ではない。ところが従兄はすぐにその魚の名前を言い当てるのだ。

「わっ❗️珍しいなぁ❗️これ、ブルーギルやでぇ」

「ブルーギルゥ・・・?」

「そうや!外来魚でな、ブルーギルいうんや❗️ブラックバスいう外来魚もおるんやけどな❗️」

そう言って従兄は大いに喜んだのである。この魚が、数10年後には社会問題になる程に繁殖するなんて、誰も思ってはいなかった。

やがて魚博士は成長して大学の水産学部に進学し、それからアメリカへの留学も経て、とうとう国立大学の教授にまでなったのである。

しかし残念ながら、数年前に病に倒れて亡くなってしまった。まだ60過ぎだったので学者としてはこれからだという時であった。亡くなった後に、彼には〈名誉教授〉の称号が授与されたのだが、そんな肩書を貰うことよりも、もっともっと魚の研究がしたかったに違いない。

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