No.636【山登り】

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高校2年生の遠足で、島根県にある、標高1.126mの三瓶山に登ったことがある。

三瓶山には温泉が湧いていて、登山客とは別に、温泉目当ての客も三瓶を賑わせていた。

来る途中のバスの中では、ガイドの女性が三瓶山について解説をしてくれた。

「三瓶には温泉もあります。三瓶山には〈男三瓶〉と〈女三瓶〉がありますが、背が高いほうの〈男三瓶〉の標高を覚えるいい方法があるんですよ!温泉に因んだ覚え方なんです・・それはぁ・・三瓶の温泉いいお風呂・・ということで、イ・イ・フ・ロ❗️ 1・1・2・6って覚えて下さいね❗️はい!標高1.126mなんですね」

この覚え方は秀逸だった。還暦を過ぎた今でも、1.126mの三瓶山の標高を、只の1度も忘れたことはないのである。

三瓶山の周りには、〈西の原〉と〈東の原〉という2つの広い裾野が拡がっているのだが、〈青年の家〉や〈食事処〉がある〈西の原〉から見る三瓶山のほうが表顔の三瓶山という感じだ。〈東の原〉には〈リフト〉があって冬場にはスキーが楽しめる。

〈西の原〉にある大きな木の麓には数頭の馬が繋がれていて、料金を支払うと、飼育係に引かれる馬に乗って〈西の原〉を散策することが出来た。

その馬の中に白馬が1頭いて異彩を放っていた。当然1番人気なので、白馬には順番を待つ客が列をなした。

・・・・・・・

〈西の原〉で少しの休憩をとった後、我々はさっそく目の前の三瓶山に登ることになった。

 その日は快晴で、広い〈西の原〉からは、山腹のジグザグの登山道を、沢山の登山者達が、蟻の行列のように並んで登ったり下りたりしている姿が見えた。

〈西の原〉を歩き切り、登山道入り口に立っている、山頂まで約130分と書かれた看板を横目に見ながら、我々は登山道へと入っていった。

最初は皆んなで冗談を言い合いながら歩いていたのだが、30分も歩いた頃から段々と口数が減っていった。

「お~い❗️山頂が見えたぞ~っ❗️」

列の先のほうから誰かの声がした。

「お~~ぉ❗️以外と楽勝じゃないかぁ」

「もう山頂かぁ?チョロいなぁ」

「山頂からは日本海が見えるらしいぞぉ❗️」

皆んな口々に到着の雄叫びを上げている。

ところがである。山頂だと思った所まで行くと、そのまた上に山が見えるのだ。

「おいっ❗️誰だよぉ~山頂だって言ったヤツはぁ❗️まだじゃないか❗️」

列の中から残念がる声が上がる。

結局、今度こそは山頂だという所を何度も何度も通過して、ヤッコラサ本当の山頂に到着したのだった。

〈西の原〉から見た感じと、実際に登ってみた感じとは全然違っていたのだ。

何度も休憩をしながら登ってきたので、看板に書いてあった130分の登山時間を、20分も余計に費やして、やっと山頂に辿り着いたのであった。

高が 1.126mだと侮ったのが大間違いだった。だから苦しかった分だけ、頂上に着いて日本海が見えた時の喜びようといったらなかった。

〈これが登山の醍醐味なんだ❗️〉

感動した僕は、甲子園の土の如く、記念に〈頂上の石ころ〉を1つ、リュックサックに忍ばせて持って帰ったくらいなのだ。

本格的な登山経験者には〈三瓶山〉如きで、と思われるかもしれないが、あの時は本当に嬉しかったのだ。

ずっと大切に持っていた〈頂上の石ころ〉なのに、何度かの引っ越しのうちに、残念ながら失くしてしまった。

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