No.643【妻の原チャリ】

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以前、ウチには3台の原付バイクがあった。

家内と息子と娘の3人それぞれが、自分の原付バイクで通勤通学をしていたのだ。面白いことに3人とも違うメーカーの原付バイクに乗っていた。

家内が〈SUZUKI  Let’s4〉
息子が〈HONDA  Today〉
娘が〈YAMAHA  Vino〉
である。

家内はオレンジ色のが欲しかったのだが、在庫が無かったので已む無くブルーの Let’s4に・・変わり者の息子は男のくせにピンク色のTodayに・・娘はベージュと茶色のツートンの、チョッとだけ高級なVinoに乗っていた。

3メーカーの原付にはそれぞれの特徴があって非常に面白かったのだが、ここではそのレビューを書くことは控えることにする。

誠に賑やかな原付事情の我が家ではあったが、子供達が順次家を出て行く毎に、1台また1台と原付の数が減っていって、最後には家内の Let’s4の1台だけが残った。

・・・・・・・

そして数年後、僕はUターンして、家族と共に実家に帰って来た。

ところが、家内はクルマばかりを使うようになったので、一緒に持ってきた Let’s4には全く乗らなくなってしまったのだ。乗らないのに自賠責保険料を支払うのは馬鹿らしいから、市役所にナンバープレートを返上し、廃車処分にしたのだが、本体だけは庭の隅っこに放ったらかしになっていた。

廃棄処分にしたバイクはすぐに手放さなければいけないという決まりがあるのだが、ついつい処分が遅れていたのである。

・・・・・・・

そんなある日のことである。ポストに1枚のチラシが入っているのに気が付いた。見ると、使っていないテレビやバイクや家電製品を無料で引き取るという業者のチラシだった。世の中にはうまい話は無いという。半信半疑だったが渡りに船だ。この話に乗ってみることにしたのだ。

指定の日、家の前にバイクを出して業者が来るのを待っていた。しかし、なかなか来ないので家内に愚痴った。

「タダで引き取るなんて、やっぱり話がうま過ぎると思ったよぉ」

「もう父さんはせっかちなんだからぁ・・タダで引き取っても、ロシアや東南アジアなんかで売れるらしいよぉ~・・・ホラッ❗️来たよ❗️」

「❗️・・ホントだぁ❗️」

見ると4トンのレッカー車がこっちに向かって近づいてくる。荷台には、先客の古ぼけたバイクが2台縛り付けてある。

〈あぁ良かったぁ・・本当だったんだ〉

引き取り業者は黙々と作業を進めて Let’s 4を荷台に積み上げると、次の回収現場に向けてトラックを発進させたのだった。

愛車の軽自動車を下取りに出す時は涙の1つも流す家内なのだが、今日の原チャリとの別れでは、寧ろサッパリとした表情でいる。

〈なんだ、今日は泣かないのか?〉

そう思ったのだが、愛車との別れの寂しさよりも、気になっていた原チャリを処分出来たことの喜びのほうが勝っていたようである。

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