No.674【辿り着かない蟻】

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僕は勉強が嫌いだったので、学生時代の成績は芳しくなかった。

ところが数学だけは好きだったのだ。好きなんだからさぞや勉強したのかと思いきや勉強はしない。だから数学の成績も良くはなかった。

数学が好きになったのには理由があった。中学の時である。同じクラスに数学者のようなヤツがいて、ソイツが数学の面白さを教えてくれたのだ。

彼の成績は、数学は元より、他の教科までもが優秀だった。ただ、本来が学者脳だったのだろう・・彼は理数系の学問を掘り下げて考えることが事のほか好きだったのである。

例えば、数学の授業で色々な〈定理〉というものが出てくるのだが、大抵の生徒はそれらの〈定理〉を覚えて、効率良く答えを導き出すことに専念する。けれども彼は違うのだ。彼は、単に〈定理〉を覚えて答えを出すことには興味が無いのだ。彼が興味を示すのは「なぜその〈定理〉が成り立つのか」を考えて証明することだった。

いつ頃からか、彼に感化された僕は、授業はそっちのけで〈定理の証明〉に没頭するようになったのである。1つの〈定理〉の証明には思いもよらないルートがあったりして、それを発見した時にはもう嬉しくってミニ数学者になったような気分になったものだ。

そうして〈定理〉の証明には血道を上げるクセに、授業の勉強ときたら放ったらかしだったし、こともあろうに、試験の問題に〈定理〉が出てくるや、テスト中にも拘わらず解答はそっちのけで〈定理〉の証明に没頭したものだからいい点なんて取れるハズもなかった。

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休憩時間になると、彼は色々な数学クイズも提供してくれた。その中で、今でも不思議だなぁと思うクイズがあった。

それは以下のようなものだった。

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(1匹の蟻がいる。その蟻は数m先にある角砂糖を目指して動き始める。蟻は半分の距離まで近づく。また蟻が動き始める。残りの距離の半分まで来た。また動く。半分のところまで来た。そうして残りの距離の半分半分と動いていっても「絶対」に蟻が角砂糖に到達するハズがないのに、実際は到達するのはなぜか?)

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というものであった。

これには参ってしまった。蟻がいくら頑張っても残りの距離の半分が必ず残るのだから、距離が「0」になるハズがないのだ。これは数学的な〈詭弁〉に違いないのだが、半分半分と考える考え方のどこが〈詭弁〉なのかは、とうとう証明することが出来なかったのである。

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〈蟻の話〉を思い出す度に、ああだこうだと、彼と2人で頭を捻っていたあの頃の教室の風景が、昨日のことのように甦ってくるのである。

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