No.52【沈黙の目撃者たち】

Uncategorized




彼女がいるわけでもないし、タマの休日なのにやることがない。
《そうだ、巣鴨に「とげぬき地蔵」っていうのがあるらしいから行ってみるか!そんなに遠くはないから歩いてでも行けるしな》
そう思って出掛けることにした。中野駅前にある中古カメラ店で買った一眼レフカメラCanon―AV―1を肩に掛けて駒込のアパートを出た。
・・・・・・・・・・・
巣鴨駅側から白山通りを向こう側に渡って右の方に歩いていくと『巣鴨地蔵通商店街』と書いてあるアーチが見えてくる。
《ははぁ、あれが地蔵通りか~》
アーチをくぐって歩いていくと、なんだか年寄りばかりが目につく。後で知ったことなのだが、地蔵通りは『お年寄りの原宿』と言われているらしかった。それにしても若い男が一人で来るような所ではなかったようである。
暫く歩いていくと、七味唐辛子を量り売りしている露店などが並んでいて、その先にとげぬき地蔵尊があるお寺の門が見えてきた。
さてと、お地蔵さんでも写真に撮ろうかと思って門をくぐろうとした時、前から、パンチパーマにサングラス、口髭を生やした、花柄のシャツに雪駄を履いた男がひとり、肩をイカラセながらこっちに向かって歩いてきた。
ところが門の前でなにかに滑ったのか、その男が「スッテ~ンッ!」と、それは派手に転んでしまったのだ。僕はや危うく吹き出すところだったが寸前で押し留めた。周りの人たちも一斉に注目したのだが誰ひとり笑わない。いや笑えるはずもなく、見て見ぬふりをしている。
男は誰かれに絡むことも出来ず、照れ笑いをする相手もいないので、なにやら地面に文句を言いながら立ち上り、お尻の汚れをはたきながらひとり立ち去っていったのだった。
さて、滅多にない面白いものを見せてもらった後だったが、せっかくなので「とげぬき地蔵尊」を撮影し、今度は鳩でも見に行こうかと思い、Canon―AV―1を手に、僕は白山通りを飛鳥山公園の方角へと歩き始めた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました