No.51【兄嫁④】(写真)

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葬儀の朝、兄嫁のお兄さんと父とが話をしていた。
「お義父さん、こんなことになって申し訳ありません。アイツ、短い人生でしたが、妊娠したんだから、一瞬でも女の幸せを味わったんですから喜んでやろうと思うんです・・・ただいちばん気の毒なのはお義兄さんで・・・」
そう言いながら一枚の写真を取り出した。
「・・・で、お義父さん、実はこんなんがあったんですよ・・」
それは披露宴の時に撮ったもので、ウェディングドレス姿の新婦ひとりを撮っているものであったのだが、縦に線を引いたように、新婦の身体の左半分だけが真っ黒に写った写真だった。
兄嫁は脳腫瘍で倒れた時から左半身が完全に麻痺したのだが、それをハッキリと暗示する写真であった。
一瞬見るや、父は即座に写真を破り捨てた。
そういえば、婚約時のドライブでのスナップ写真に、兄嫁だけが写っていなかったことや、葬式花みたいだと揶揄されたブーケも、もうすでに今日を暗示していたのかもしれない・・いや、そうに違いない。
・・・・・・・・・・・・
それから随分のちに、兄は再婚をして一子を得け、その子も成人して兄はそれなりの人生を送ったのだが、2年前、私よりも先に癌でこの世を去った。残された義姉の希望で樹木葬をすることになり、今は小高い丘の上の桜の木の下で、ひとり静かに眠っている。

*これは本当にあった話です。

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