No.50【兄嫁③】(帰宅)

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兄嫁の通夜は自宅で行われた。連絡を受けた親族親戚が集まって、憔悴し切った兄に慰めにもならない言葉を掛けては酒を飲んでいたのだが、弟だけがまだ帰って来ていなかった。
「おい、あと帰って来てないのはアイツだけか?」
父もそう言って気にしていたのだが、暫くすると玄関でドアの開く音がした。
「カチャッ!・・・バタン!」
靴を脱ぐ音がして、玄関からすぐ二階につながっている階段を静かに上がっていく足音がする。
玄関と居間は隣だったので音が聴こえるのだ。
「おっ!□□が帰ってきたか。えらい遅かったなぁ・・・しかし、なんで二階なんかに上がっとんねん。先に兄貴にお悔やみでも言わんかいな」
叔父さんはそう言うと、グビッ!と盃を空けた。
ところがいつまでたっても二階から弟が降りてこないではないか。皆んな少し心配になってきた。
「おい、お前、上にあがって見てこいや」
もうひとりの伯父さんが私を促したその時、再び玄関のドアが開く音がした。
「カチャッ!・・バタン!」
靴を脱ぐ気配がして居間のドアが開いた。
「ただいま、遅くなりました。」
そこには弟が立っていた。
「お帰りぃ、あんた、二階でなにしてたの?」
母が訊ねた。
「はぁ?二階?」
「さっき二階に上がっていったじゃないの」
「いいや、オレ、いま帰ってきたばかりだけど、二階になんか上がってないよ」
「じゃぁ、さっき二階に上がっていったのは誰なのよ」
すると父が私に言うのだった。
「おい、お前、二階に上がって見てこい」
「ええ~っ、僕がぁ?」
親戚の皆んなも、行ってこいというので、なんで僕なんだよ、と思いながらもゆっくりと階段を上がっていったのである。
二階には部屋が二つがあった。まず六畳のほうを開けてみた。誰もいない。ソ~ッ!と八畳も開けてみた・・・・誰もいない!
「・・誰もいないヨ・・」
居間にもどって皆んなに伝えると、柩の前で泣いていた兄が、ハッ!とした顔で言った。
「・・〇〇子が帰ってきたんだ」
(つづく)

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