No.349【愛しのシルビア】

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若い頃は車が〈命〉だった。

それまでは〈カローラ〉に乗っていたのだが、ある日突然〈シルビア〉が欲しくなったのだ。

ある朝ガバッ!と飛び起きて僕はこう言った。

「シルビアが欲しいっ❗️」

家内が驚いた。

「なによっ!お父さんったら、ビックリするじゃないのぉ」
「リトラクタブルヘッドライトのシルビアが欲しいっ❗️」

当時、ヘッドライトが閉じたりひらいたりする〈リトラクタブル式〉が流行っていたのだ。

結果、代りにタバコを止めるという条件でシルビアを買うことになった。大好きなタバコを止めてでも欲しかったのだ。

それからというもの、何軒かのクルマ屋を当たってはお目当てのシルビアを探し続けた。新車は無理なので〈中古〉になるのだが、それでも一向に構わなかった。
暫くしてお手頃のシルビアが見つかった。

それは〈日産シルビアR―X〉というクルマで、S―12型であった。上半分がパールホワイト、下半分が濃いメタリックブルー、そして〈CA18ET(135ps)〉というターボエンジンを搭載した車だった。

本当は〈CA―18DET(160ps)〉というツインカムエンジン搭載車の〈RS―X〉が欲しかったのだが、いい中古が見つからなかったのでシングルカムの〈R―X〉で我慢せざるを得なかった。

・・・・・・・

待ちに待って納車されたシルビアは、まさにウットリとするようなフォルムだった。

初めて乗るスポーツタイプのクルマは、足回りが安定していてカーブでも怖くはなかった。地面への接地感があって安心して曲がれるのだ。

クルマによってこうも乗り心地が違うことに驚いてしまった。

シングルカムとは言え。1800cc.ターボエンジンは頼もしくて、出だしは鋭かった。

友人のBMW―320i と 0―400勝負をしたがシルビアの敵ではなかった。

ターボ車の速さにスッカリ虜になってしまった僕は、毎夜のようにドライブに出掛けた。

・・・・・・・

そんなある夜、国道のバイパスを走っていると、後ろからパッシングライトを浴びせる車が迫ってきたのだった。

その車はすぐに追い越し車線に出たかと思うとシルビアの右横に並んできた。どうやら勝負しろということらしい。

その車はTOYOTA―ソアラだった。

《なんだこの野郎❗️勝負してやろうじゃないかっ❗️》

僕の闘争心に火がついた。アクセルを踏み込むとターボが効いてキューンといいながら、シルビアはアッという間にソアラの前に出た。

《へんっ❗️ざま~見やがれ❗️》

と、そう思ったのも束の間だった。ソアラがすぐに距離を縮めてきたのだ。ジワジワと追い付いてくるとそのままシルビアの前に出てきた。

僕は目一杯にアクセルを踏んだのだが、とうとうソアラに追い越されてしまって、もう追い付くことは諦めなければならなかった。

追い越して行くソアラのお尻には3.0の文字が見えた。3Lエンジンのソアラだったのだ。

瞬発力では勝ったものの、結局3Lには勝てなかったのだ。

無論、悔しかったのだけれども、それでも僕には、愛しい愛しい〈シルビア〉なのであった。

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