No.93【屋台のラーメン屋】

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当時、夜になると駒込の駅前にラーメンの屋台が出ていたのだが、駅前に出た時にはちょくちょくそこのラーメンを食べていた。さっぱりした味の醤油ラーメンだった。今でもラーメン好きの私だが、その頃には若さに任せてよくラーメンを食べていたものだ。
その日もその屋台に寄ってラーメンを啜っていたのだが、ふと垂れ下がっているメニューの札が気になった。
「大将!メニューの札、文字がかすれて読み難いですねぇ」
「ん?・・おぉこれなぁ。俺もわかってんだが書き替えるの面倒でさぁ・・誰かやってくんないかな?金は払うからさぁ」
「えっ?金んなるんですか!」
「おう・・・メニュー札・・1枚千円だな!」
「千円!・・ラーメン・叉焼麺・メンマラーメン・ワンタン麺・酒・・あちら側にも同じものがあるから、計10枚で1万円かぁ」
「おっ!兄ちゃんやってくれるかい?」
「う~ん・・よしっ!やります!学生ん時、建築製図をカジッてたんでなんとかなるでしょう」
「おう!頼むぜ!材料代は別に出すからよう!」
・・・・・・・
過日、教えられた屋台の保管場所に行って作業を始めた。キチンと綺麗に描いてやろうと思って、文字を「明朝体」にした。
・・・・・・
その日の夜に、早速、駅前の屋台に行ってみたら、大将が凄く喜んでくれていた。
「おめぇ上手いなぁ、印刷したみたいじゃねぇか!常連客がビックリしてたぜ。祝儀として作業代2万円だ!」
「わぁ~っ!ありがとうございます❗️」
こうして、駒込駅前のラーメン屋台には、私が描いたメニュー札がぶら下がることになったのだった。
・・・・・・・・
それにしても「明朝体」だなんて、今にして思えば味もヘッタクレもないお堅い書体を使ったものだと思うのだが、「ゴシック体」とか、ましてや崩し文字などが主流になるのは、まだ先の時代になってのことだった。

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