No.118【粘土細工】

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僕は小さい頃から少し変わった子供だったので、皆んなが外で〈鬼ごっこ〉や〈かくれんぼ〉をして遊んでいるのに、1人家で粘土細工をしていることがままあった。
自分で言うのもなんだが、粘土細工の腕前はかなりのもので、ネズミを作って隅に置いておくと、おばあちゃんが本物だと思って驚いたほどだ。
・・・・・・・
さて時は流れて僕は中学生になった。
ある日の美術の授業で「彫塑」があって、粘土で《手》を作ることになったのだが、変わり者の僕は先生に質問した。
「は~い先生!《手》じゃないといけないんですか?」
「おうそうじゃ、今までずっと《手》を課題にしてきたからな」
「あのぉ~《足》じゃぁいけませんか?」
「足~っ?・・足かぁ・・お前は変わったヤツじゃのぉ・・よしっ!面白い!足、作ってみぃ」
そうして《足》を作る許可を得た僕は、靴下を脱いで片足を出し、子供のころから培ってきた粘土細工の技術を駆使して《足》を作り始めた。
それは、踏ん張った左足を、踝の上でスパッ!と切った形のもので、血管や筋まで忠実に再現したものだった。気持ちが悪い、と言った友達がいたほどだ。先生は苦笑しながらも絶賛してくれた。
1週間乾燥させたあとブロンズ色の塗料を塗って、それは完成した。
文化祭の時には作品が展示されたのだが、皆んなの《手》の中に混じって、特別賞を貰った僕の《足》だけがポツンと異彩を放っていた。その《足》はズッと大切に保管していたのだが、引っ越し等の際に紛失してしまったのだろうか、今いくら探しても見つからない。皆さんに是非とも見て頂きたかったのだが残念でならない。
・・・・・・
さて数十年の歳月が流れて僕は成人し、結婚もした。子供も産まれた。
長男がまだ幼稚園年少のころだ。おじいちゃん(僕の父)とおばあちゃん(僕の母)が初孫の顔を見に遊びに来ていた。
息子は粘土を取り出してきて1人で遊んでいる。
「なにを作ってるのかな?」
「ん~とね・・チ〇チ〇!」
「そうか、じゃぁ父さんも作ろうかな」
そう言って息子の粘土を拝借して立派な〈物〉を作った。息子は喜んだ。
「トオサンすご~い!おばあちゃんにみせてくる~」
息子はそれを手にブラ下げておばあちゃんのところへ持って行った。
するとおばあちゃんがすぐにやって来て、喜ぶどころか不機嫌な顔をしてこう言った。
「なにバカなもん作ってんの!アンタのはシャレにならん!バカタレがっ❗️」
薮蛇だ。こっぴどく怒られてしまったのだった。
作品のリアルさと母の性格がとんだ災いを呼んでしまった1件だった・・・トホホ

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