No.154【スーパーの駐車場】

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僕が結婚したのは、東京から帰って来た30歳の時だった。けれども、数年前に捨てた、想い出ある街には住んではいなかった。

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別れた彼女が結婚したという話は風の便りで聞いていた。

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僕が結婚して2年程経った頃に長男が産まれた。子供が6ヶ月にもなった頃、両親に顔を見せるために、家内と子供を連れてあの街に帰って来た。

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両親は孫の誕生を大変に喜んでくれた。今日はお祝いのパーティーをやろうとハシャいでいる。

じゃぁ、買い出しに行こうかと、長男を連れて家内と一緒にスーパーに出掛けた。
買い物が終ったので、そのまま真っ直ぐに帰ることにして駐車場に出たのだが、自分のクルマがなかなか見つからない。家内が荷物を持ち、僕は長男を抱っこして駐車場のクルマの群れの中を自分のクルマを探して歩いていく。

家内がウチの赤いクルマを見つけた。

「あっ!あったよ!」

クルマは別のクルマの1つ前にあったので、子供を抱っこしたままそのクルマの横をすり抜けて自分のクルマまで行く。家内は買い物した物を助手席に放り込んだあと子供を受け取って後部座席に座り込んだ。身軽になった僕は運転席に乗り込みエンジンを掛けたあと何気なくルームミラーを覗いた。

すると、頭から突っ込んで駐車していた後ろのクルマの、運転席にいる女性に気が付いた。その女性はジッとこちらを見ている。鏡の中で眼が合った。

《・・・・❗️》

それは別れた彼女だった。

高鳴る鼓動は押さえようにも押さえられない。数秒のち、胸が張り裂けそうな気持ちを堪えて僕はクルマを発進させた。僕が気付いたことを、彼女が知ったかどうかは分からない。しかし、彼女のクルマの横を、赤ちゃん連れの僕たちが通ったことを彼女がシッカリと見ていない筈はない。

クルマが動き始めて、駐車枠から出て右折する寸前に、万感の思いを胸に、僕は軽くクラクションを鳴らした。

〈ビッ!〉

彼女への、僕のせいイッパイの挨拶だということを、分かってくれたかどうかを知る術は無かった。


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