No.170【ソラマメ】

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まだ20代の若い頃である。

僕は東京北区の滝野川の安アパート、というよりも下宿というべきか、3畳一間の部屋を借りて住んでいたことがある。

若者の貧乏生活なんて何処にでもあることなのだが、ある事情から、ある日、金も食料も底を突いてしまったことがあった。

空腹をもて余しているところへ、千葉の友人から段ボール箱に入った〈ソラマメ〉が送られてきた。

暫くは収入が無いので〈ソラマメ〉を食べて飢えを凌ぐことになった。

猫の額のようなキッチンで鍋に湯を沸かし、少しの塩を加えて〈ソラマメ〉を湯がいては、連日食べ続けたのだが、3日目くらいからは、どうにも喉を通らなくなってきた。

いくら空腹でも、〈ソラマメ〉だけを食べ続けることは苦痛になってくる。それでも〈ソラマメ〉しか食べる物が無いので根性で食べ続けた。

・・・・・・・

1週間が経ったころ、建物の奥にある共同トイレに行って驚いた。

和式便器の中の《それ》は実に綺麗なもので、まるで〈ソラマメ〉の実を裏漉ししたような明るい緑色をしていたのだ。匂いも全くない。

〈ソラマメ〉で腸が大掃除されたようだ。人間、食べた物が確かに出てくるんだということを、身を持って体験したのである。

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