No.224【庭の小さな石】

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子供たちがペットを欲しがっていることは知っていたのだが、我が家ではまだペットを飼ったことがなかった。

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「ただいま~!お~い、今日はお土産買ってきたぞ~来てごら~ん!」

玄関のドアを開けるなり、僕は大声で家族を呼んだ。すぐに家内が出てきた。

「お帰りなさい、今日は早かったのねぇ」

娘もやってきた。

「お父さんお帰りなさ~い!お土産ってな~に?」
「お土産はコレッ!」

そう言って、小さな白い箱を差し出した。

「お父さん、なになに?なんか、カサコソ音がしてるよ!」

娘が目を丸くしている。

箱の中身は〈白文鳥の雛〉なのだった。

「うわ~っ!嬉しいっ❗️お父さんありがとう!」
「しっかり世話しなさいよ。中学生なんだから大丈夫だよな!」
「うん!」

小鳥ならなんとか育てられるだろうと思ったので、仕事帰りにペットショップに寄って買ってきたのだ。家族はことのほか喜んだ。

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そうして、その日から〈文鳥〉を中心とする生活が始まったのである。

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真っ白い身体に赤い嘴をしたその雛鳥は《ルル》と名付けられてスクスクと育っていった。家族によく懐いて、手の中で甘えたり、指や肩にチョコチョコと乗ってきたりしては皆んなを和ませた。

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数ヶ月経ったある日のことである。

居間では家族とルルが一緒に遊んでいた。夏休みなので子供たちも家で寛いでいる。高校生の息子は連日の部活の疲れからか、隣の部屋でゴロゴロしていた。
ルルは家内の肩に止まったり、娘の頭の上に飛んでいったりして愛嬌を振り撒いていたのだが、今度は隣の部屋の息子のところに飛んでいった。上半身は裸で、うつ伏せに寝っころがっている息子の背中で遊んでいたルルが、ポンッ!っと畳の上に降り立ったその時である。

息子が大きく寝返りを打った。

「ギュエッ❗️」

嫌な 声がした。

背中に異物を感じた息子が飛び起きた。

「❗️・・・」

眼に入ってきたのは畳に張り付いて動かなくなったルルだった。

「わぁぁ~~・・・・」

震えるような息子の声に只ならぬものを感じて、皆んな隣の部屋に飛んでいった。

ルルを見た娘が叫んだ。

「ルルがっ❗️・・ルルが~っ❗️・・・」

瞬間に事情を察した僕は捲し立てた。

「これは事故だっ❗️兄ちゃんが悪いんじゃないぞっ❗️仕方がないっ!兄ちゃんを責めるんじゃないぞっ❗️」

裸の背中でルルを潰して死なせてしまった息子の心を心配したのだ。

「ルル~ルル~ルル~~❗️」

家族は名前を叫びながら泣き叫ぶばかりだった。

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動かなくなったルルをそっと手に取ると、両脚を丸く縮めて、眼は薄紫色の瞼で閉じられていた。それが、ついさっきまで元気に愛想を振り撒いてくれていたルルの最後の姿だった。

放心したような息子が、気が付いたように下を向いて目頭を押さえた。

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泣いてばかりいる家族をなんとか宥めて庭に出た。埋めたくないという子供たちを説得して穴を掘った。

「・・いいか?埋めるぞ・・埋めるぞ・・」

掘った穴にティッシュにくるんだルルをソッと置いたあと、皆んなで土を掛けてやった。

その上には小さな石が置かれた。

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あれから十数年が経った。引っ越しをして、今はもうそこには住んではいない。そして、あの小さな墓がまだ残っているのかどうか、今となっては分からない。

(〈文鳥〉身体がグレーで頭が黒い〔桜文鳥〕と、全身が真っ白の〔白文鳥〕がいる)

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