
1日200万円強の売上げがあるファミリーレストランは、深夜になっても客足が途絶えることがなかった。
そのファミリーレストランの客席は、L字型に〈A〉〈B〉〈C〉の3つのフロアに区切ってあった。
忙しい中、それでもタマには客足が落ち着いて〈B〉や〈C〉のフロアをチェーンロープで封鎖して〈Aフロア〉だけで営業をすることもあった。
〈Bフロア〉〈Cフロア〉を閉鎖した時には、ひとりだけが〈Aフロア〉に残って、あとの者は、お客様から最も見えない〈Cフロア〉のボックス席で代わる代わる休憩を取った。
店長がいないのをいいことに、社員が率先してそうするのだから、我々バイトも喜んで〈Cフロア〉のボックス席に集まった。キッチンにも声を掛けて一緒に休憩をした。
そんな身勝手なことをさせるくらいに、普段のこの店は忙しくて〈やってられるかっ!〉という感情を皆んなが持っていたことは否めない。
だだ座って休むだけではない。ここは〈レストラン〉なのだ。飲む物も食材も売る程ある訳だ。
「オレ生ビール持ってくるからさぁ!チーフさぁなんか提供してよ~」
件の社員がチーフに〈ツマミ〉の交渉をする。
「あぁ、ローストビーフがあるからあれいってみようか!」
売上が多い店なので、食材と飲料の残損量(廃棄ロス)も少なくない。少々生ビールを飲もうがローストビーフを喰らおうがバレたりはしないのだ。
ニューゲストが入った時には何人かが〈Aフロア〉にヘルプに入り、落ち着いたら〈Cフロア〉のボックス席に戻るのだ。皆んなで交代しながら生ビールとローストビーフなどを楽しむのであった。
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さてある時、店の前の大通りの向かいに〈居酒屋〉と〈ラーメン屋〉が開店した。
相変わらず〈Cフロア〉の酒盛りは続いていたのだが、〈居酒屋〉と〈ラーメン屋〉が出来てからは交代でそこにも通うようになった。いちいち着替えている暇などある訳がないので制服のまま行くのだ。
〈居酒屋〉から社員が帰ってきた。
「あ~酎ハイ旨かった~おいっ!今度はお前行ってこいよ!10分で帰って来いよ」
僕の番がやってきた。
「は~いっ!行ってきま~す!」
ハイタッチをして交代する。
制限時間が10分だったので超忙しい。〈ラーメン〉を食べる場合には前もって電話をしておいて、店に入った時にはカウンターテーブルにラーメンが乗っかっているように頼んでおかなければならなかった。
随分と無茶なことをしたもんだが、深夜の隠密行動が店長の耳に入ることはついになかったのである。
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もう数十年も前の懐かしい話である。
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