No.264【ミドリちゃん】

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僕がバイトをしていたファミレスには、〈ミドリちゃん〉という18歳の、それは可愛い女の子がいた。

今で言うフリーターなのだが、当時はそんな言葉もない。

なんでも家庭環境が複雑だということは聞いたことがあったが、詳しい事情を知っている者は誰もいなかった。

山手線沿線にあるそのファミレスは、1日24時間で200万円を越える売上がある店で、いつもパンク寸前になるくらいに超多忙な店であった。

ミドリちゃんはアルバイトとしては僕より先輩だ。小柄で華奢な身体つきながら、仕事ではAクラスの力量を持つスーパーウェイトレスだ。

・・・・・・・

さて、ある時その店に1人の男性新入社員が入ってきたのだが、コイツが丸でセンスのないヤツで、いつまで経っても一人前の仕事が出来ないのである。

社員とは名ばかりで、その仕事ぶりはアルバイトにもバカにされる始末だった。眼鏡も掛けていたので皆んなからは〈のび太〉と呼ばれた。

〈のび太〉には〈ドラえもん〉が付きものなのだが、彼にもやはり〈ドラえもん〉が付いていた。

その〈ドラえもん〉というのは、ドラえもん体型の男子大学生のアルバイトのことで、非常に仕事が出来るヤツだった。なぜだか〈のび太〉のシフトと重なることが多くてよく一緒に仕事をした。

〈ドラえもん〉はよく働いて、〈のび太〉の失敗をカバーしては彼を助けた。

新入社員は、皆んなから「のび太のび太」とからかわれながらも、〈ドラえもん〉の助けを借りて彼なりに頑張ってはいた。

・・・・・・・

ところがある日のことである。そんな〈のび太〉の仕事ぶりに堪りかねたミドリちゃんが言い放ったのだ。

「〈のび太〉は〈ドラえもん〉がいなきゃ、な~んにも出来ないんだからっ❗️」

「なんだとっ❗️」

〈のび太〉が怒った。

怒ったくらいだから一念発起して頑張るのかと思いきや、彼はじきに辞めてしまって本当の〈のび太〉であったことを自ら証明してしまったのだった。

皆んなにからかわれても辛抱していたのに、ミドリちゃんの一言がついに彼を撃沈させたのである。

ミドリちゃんの存在感は〈女帝〉の如きだった。

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