No.104【戦争ゴッコ】

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小学校の裏手には小高い山があって、そこはちょっとした公園になっていた。
春になると沢山の桜が咲いて花見客で賑わい、夏になるとカブトムシやクワガタムシが獲れた。秋には木々が紅葉し、冬になって雪が積もるとミニスキー場にもなったので、その公園は老若男女を問わず、多くの市民から愛され親しまれていた。
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さて、当時テレビでは《コンバット》というアメリカ製の戦争ドラマを放送していたのだが、それは小学生にも絶大なる人気があった。そのテーマ音楽は今でも耳に残っているほどだ。
だから少年達の間から《戦争ゴッコしようやぁ❗️》という声が挙がるのも極く自然なことだった。
戦争ゴッコはその公園の山全体を舞台にして行われていたのだが、3つのグループに分かれて戦っていた。3つのグループというのが《アメリカ軍》《ドイツ軍》《日本軍》だ。
自分達のグループがどの軍隊になるのかは重大な問題だった。というのも《コンバット》の主役ビッグ・モロー演ずるサンダース軍曹の影響から、皆んなアメリカ軍になりたかったからなのだ。
アメリカ軍になったらなったで、グループ内で役が決められるのだがそれには序列があった。
筆頭がトンプソンサブマシンガン(トミーガン)とCOLT45を持った、ドラマでは主役のサンダース軍曹、次がM1カービン銃のヘンリー少尉、続いてM1ガーラントのケリー上等兵、同じくカービー上等兵、リトルジョン上等兵、ウォルトン衛生兵という順序である。ウォルトン衛生兵に当たったヤツは戦闘には参加できずに救助ばかりをやらなければならなかったのであまり面白くはなかったのだが、敵からの攻撃を受けなくても済むというメリットもあった。衛生兵を攻撃してはいけないのだということは《コンバット》を見て知ったのだ。
当然グループ内で強いヤツや人望のあるヤツがサンダース軍曹になるわけなのだが、僕にその役が廻ってくることは、ついぞ1度もなかった。
どの軍になるのかはジャンケンで決められた。1位がアメリカ軍、2位がドイツ軍、ビリが日本軍だった。
ドラマでは悪役のドイツ軍よりも日本軍にはなりたくないというのが当時の少年達の偽らざる感覚だったのだ。
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「パンッ❗️パ~ン❗️」
「バババババババッ!‼️」
そこら辺に落ちている木切れを銃に見立ててそれを構え、それぞれが口で銃の音を出して戦うのだが、マシンガンを持っていない役柄のヤツが《バババッ!》っというマシンガン音を口にすることは許されてはいなかった。だから皆んな正直に自分の持っている銃の音だけを口にしていた。その決まりを破ると《軍法会議》に掛けられるからだ。
では口鉄砲でどうやって敵を殺すのかというと、敵に気付かれないように《パ~ン!》と撃つことができたら、撃たれたヤツが戦死したことになるのだった。死んだかそうでないかはそうして決まった。
そんなルールのもとで僕達は終日山を駆け巡るのだが、その日は日本軍の仲間が全員《戦死》してしまって、1人取り残された僕は複数のドイツ兵に追われていた。
ドイツ兵はシュマイザーMP―40というサブマシンガンを持っている(ことになっている)のでよけいに怖いのだ。だからそれこそ必死になって逃げ回るのだが、もう脚が棒のようになっている。
いよいよ追っ手が迫ってきた。葉と枝を掻き分けながら一か八かで僕は藪の中に突っ込んだ。
「キャーッ❗️」「わ~っ❗️」
おねえさんとおにいさんが悲鳴をあげた!
そこにはデート中のアベック(カップル)が並んで座っていたのだった。
「わ~っ!ごめんなさ~い!ドイツ軍に追われてるんです~っ!」
おねえさん達の悲鳴によって居場所が突き止められ、ドイツ軍に捕まった僕は捕虜にされてしまったのだった。
その日はドイツ軍が勝利した。
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そんな《戦争ゴッコ》が5年生くらいまでは続いたのだろうか・・いつぞや疎遠になっていって、気が付いた頃には《戦争ゴッコ》は自然消滅していた。
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さて年限が経って今はネット社会になった。
それこそ色んな情報に触れているうちに自分の中に変化が起きてきたのが分かる。
《そうか、あの頃はアメリカ軍がヒーローだったんだなぁ、日本軍はドイツ軍よりも嫌われていたんだよなぁ・・でも、日本軍ってそんなに悪いことをしたんだろうか?》
そう思うようになってきたのだ。
今、改めて歴史を見た時に、果たして少年達の認識が正しかったんだろうか?と思うのだ。
戦後、すっかりアメリカナイズされてしまったこの国に、果たしてこの先《日本軍》に誇りを持って生きる少年達が現れてくるのであろうか?
今の日本人の精神は、あの《コンバットの当時の少年達の心》とあまり変わってはいないように思えてならないのだ。
いずれにしても、テレビの影響力には計り知れないものがあることだけは、間違いはなさそうである。

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