No.279【夜の公園】

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東京の夏の暑さといったら他にはなかった。それは夜になっても変わることがなくて、3畳ひと間のアパートの部屋の中は殆んどサウナ状態になった。

1ヶ月の家賃が5.000円のその部屋にはエアコンなどが着いているはずもなくて、その暑さといったら尋常ではなかった。

堪らず窓を開けようものなら、蚊の大群が入ってきて大変なことになる。部屋は1階にあって、窓の外にはジメジメした小さな空き地があり、蚊が湧き放題だったのだ。窓を開けっぱなしにして蚊取り線香を焚いたって効果はあまり期待できなかったし、第一窓を開けてもそんなに涼しくはないのだ。

だから汗だくになって悶絶することになる。とてもじゃないが眠れたもんじゃぁない。

どうにも我慢が出来ないので外に涼みに出ることにした。細い路地を出ていくと、幹線道路の斜め向かいに小さな公園があるのだ。手ブラで行っても退屈すると思ったので、趣味の一眼レフカメラを持って部屋を出た。

夜中の2時を少し回った頃だった。

・・・・・・・

公園も暑いのだが、3畳の部屋と比べれば少しはましだ。

暫くはブランコに乗って遊んだ。ブランコに揺られている時だけは風が身体に当たって少しは涼しい。

《ずっとブランコに乗っているのも疲れるなぁ・・・せっかくカメラ持ってきたんだから、夜の公園でも写真に撮るかぁ》

そう思ってブランコから降りてカメラを構えた。

《さて、暗い公園で何を撮ろうか?》

公園には遊具しかない。

《よしっ!この際、夜の公園ってテーマで写真を撮ってやろう》

それから僕はストロボを焚いたり、ストロボを使わずにスローシャッターを使ったりして2・3の遊具を撮影していった。

ところが暫くすると、ひとりの警官がやってきて僕に職務質問を掛けてきたのだ。

「ああ君っ!いい若者が夜中になにやってるんですか?」

《誰かに通報でもされたのだろうか?》

「あっはいっ!・・あのぉ~・・写真、撮ってんですけど・・」

「真夜中に写真?・・撮るもんなんかないでしょう」

「はぁ、まぁブランコとかジャングルジムを撮りましたけど、いけませんか?・・夜中に写真撮っちゃいけないっていう法律でもあるんですか?」

「ん!・・・法律は・・ない・・です」

「実は部屋があんまり暑いんで、涼みがてら写真を撮ってたんですよ」

「はっ!分かりました。失礼しました。ゆっくり涼んで下さい。でもなかなか物騒ですからね。暑いでしょうが、早目に帰って下さいね」

警官はそう言うと敬礼をしてその場を去って行ったのだった。今だったらとてもそんなわけにはいかなかったかもしれない。

・・・・・・・

長い人生、警官に職務質問を受けたのは、今のところ、あの時が最初で最後である。

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