No.292【台湾の古銭】

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バスは次の目的地である、台北市万華区の〈龍山寺〉に向けて走っていた。

ガイドの台湾人男性がマイクを握り、流暢な日本語で〈龍山寺〉についての解説をし始めた。

「はい、龍山寺は台湾で1番古い寺院で、日本の統治時代には大掛かりな修理が行われました。本尊は観世音菩薩ですが、道教や儒教などとも融合しています。・・・あ~それから、寺院の界隈には台湾の古銭・・え~古いコインです。それを売っている古銭の売り子がいるかもしれませんが、全く価値が無いものを売り付けてきますので、買わないほうがいいですよ。注意して下さいね」

台湾の観光地には色々な物売りがいるんだとガイドが教えてくれた。

・・・・・・・

やがてバスは龍山寺に到着した。我々ツアー客は、冷房の効いた車内から暑い外へと出ていく。

〈龍山寺〉の境内には何かの音楽が流れていて、線香の煙で白く濁った中に大勢の人々が参拝している。

入り口で長い線香を1本受け取って、何ヵ所かで小さな炎が燃えている点火台で火を点け、3回ほど拝をして、屋根付きで金色の、蛇などの装飾を施した大きな壺の中の灰に線香を刺す。

また、ハマグリのような木片を2枚地面に投げて木製の番号札を引き、運勢を占う〈おみくじ〉のようなものもあった。

寺の周りには、ガイドが言っていた通り、〈古銭売り〉の男がどこかの観光客を捕まえていたが、僕はそれには関わることなくバスに返ることにした。

車内に入ると冷やっとした空気が実に心地よい。外から返る度毎に美女ガイドが手渡してくれる〈冷たいおしぼり〉が有り難い。

そうこうしているうちに残りのツアー客もどんどんバスに戻ってき始めたのだが、1人のオジサンが嬉しそうに〈古銭〉を手にして返ってきたのだった。

「これ見てみ、台湾の古い貨幣じゃ!価値があるらしいでぇ」

そう言って自慢しているのだが、隣に座っている奥様に突っ込まれているのだ。

「えぇ~っ?あなた、どこ行ってたのかと思ったらこれを買ってたの?ダメよ、さっきガイドさんが言ってたでしょ!こんなもの、価値ないのよっ、幾らで買ったのよっ!あなたったらもぉ~」

ツアー旅行に行くと、必ずやこういうのがひとりはいるものである。

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