No.559【戦車のオモチャ】

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あれは小学校の2年生くらいの時だっただろうか・・・

今で言えば〈チョロQ〉くらいの大きさの〈戦車のオモチャ〉を買ってもらったことがある。

それは緑色で、小さいくせにキャタピラーが付いていて、ゼンマイを巻くとジージーと動いた。大変にお気に入りのオモチャで、学校から帰ると宿題もせずに〈戦車〉で遊んでいた。

そんなある日、友達と2人でオモチャ屋に〈メンコ〉を買いに行った時であった。他のオモチャに混じって、僕が持っている〈戦車〉と同じものが陳列棚に飾ってあるのに気が付いた。

取り出して箱の上に乗っけてある新品の〈戦車〉が目の前でピカピカと輝いている。

僕の心にふと魔が差した・・・

ポケットから僕の〈戦車〉をソッと取り出して、誰にも分からないように、展示してある〈戦車〉と取り替えてしまったのだった。

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あんなことしなけりゃ良かったなぁと後悔をするのだが、本当のことを打ち明けて謝る勇気もなかった。今にきっとバレてしまって怒られるに違いない。店のオバチャンが気が付かないはずがないと、ドキドキした日々が続いたのだが、結局バレることはなかったのである。

・・・・・・・

月日が流れて僕は中学生になっていた。

そして、ある小説に巡り会った。

それはクラスの男子の〈絵の具〉を盗んだけれども、優しい女教師に諭され救けられる少年の話を表した有島武郎の名作「一房の葡萄」という小説だ。それを読んだ時には、主人公の少年の心持ちが、もう自分のことのように僕の心に染み込んできたのを覚えている。

・・・・・・・

バレることが無かったとは言え、あの〈戦車〉のことを思い出す度に甦ってくる罪悪感は、おそらく死ぬまで消えることは無いのだと思う。

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