No.33【外車】

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私は若いころ楽器店に勤めていた。その日は他の従業員は営業で外に出ていたので、社長と私と二人で店番をしていた。するとガラス越しに見える表通りに、彩やかな緑色の見慣れぬ形のクルマが店側に横付けして停車し、中から馴染み客の青年が降りてきた。この青年は町の有力者の御曹司である。
「社長~っ!おはよう。ギターの弦ちょうだいや。ライトゲージは響かんので、ミディアムゲージにしてみるわぁ」
「おはよう!そりゃそうとクルマ換えたんか?」
「あぁ、あれ?うん、換えた」
御曹司は、別段、大したことではないという風情だ。
「見たことないクルマじゃが」
「BMWの2002いうんよ。普通はマルニって呼ぶ人が多いかなぁ」
「外車かぁ?」
「うん、ドイツのクルマ」
街で外車を見掛けるなどほとんどなかった時代である。社長は興味津々だ。
「ちょっと運転席に座るだけでもええから座らしてくれんかなぁ」
「ええよ~なんぼでも座って」
喜んだ社長は表に飛び出して行ってニコニコしながらドアを開け、運転席に座り込んで驚いた。
「ハンドルがない‼️」
BMWは左ハンドルだった。

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