
風呂のリフォームが終った。
費用が166万1千円掛かったが、見積もり額が180万弱だったので夫婦で喜んでいる。現金で支払うことにした。
リフォーム会社に連絡すると担当者が集金にやって来た。
部屋で現金を手渡すと、担当者は確認のためにお札を1枚づつ数え始める。
ところが何度数えても1万円多いという。
結局、やはり1万円多かったことが判明し、1万円と、サービスとしての端数の千円が手元に戻ってきてラッキーだったのだが、何度もお札を数える姿を見ていて、ある昔の出来事を思い出したのである。
・・・・・・・
僕がまだ若いころ、なけなしの金を叩いて新車を買い、1年経ったころのことである。当時、勤務していたホテルでアルバイトをしていた女子大生が、僕の車がどうしても欲しいと言い出したのだった。
「1年も乗っているし、チョッと傷も付いているんだけど・・」
僕はそう言って断るのだが、彼女は引かないのだ。
「◆◆さんのは限定車で黒でしょ❗️もう買えないんですよ黒は❗️シートとホイールカバーの色も限定車専用色なんですから❗️」
ボディの色は紺かガンメタにして新車を買ったほうがいいよ❗️」
あの限定車がいいんです。言い値で買いますから売って下さいよぉ~。お金はおばあちゃんが出してくれるって言ってるんですぅ」
ホテルの仕事場で顔を合わせる度に、彼女は〈売って下さい攻撃〉を仕掛けてくるのだ。それが暫くの間続いたのである。
その熱意にとうとう根負けした僕は、彼女にクルマを売ってあげることにしたのだ。
「わかったわかった❗️売ってやるよ❗️・・買った時の車両価格が198万だったんで・・」
「じゃ200万で買います❗️」
「いやいや、1年も乗ってるんだし傷もあるんだから・・・160万でどう❓️現金でお願いしたいんだけど・・160万で次のクルマ買えるから」
「えぇ~っ❗️それでいいんですかぁ❗️ありがとうございますぅ❗️」
彼女の余りの熱意に、こうして160万での商談が成立したのである。
「あの娘は◆◆に惚れてんじゃないのかぁ❓️」
などと同僚にからかわれたりもしたのだが、そんなことは・・無いとは言い切れないのかもしれない。
そうこうしてるうちにクルマを手渡す日がやって来た。
・・・・・・・
約束の日、早速その女子大生と母親がホテルにやって来る。
お母さんにもクルマを見て頂きたかったので、2人をホテルの下に止めてあるクルマのところに案内した。
お母さんが恐縮しながら挨拶をされる。
「この度は娘が大変な我が儘を言いまして本当に申し訳ありませんでした」
「いいえぇ、とんでもありません。これがクルマです」
「まあぁ~綺麗なクルマを❗️・・あのぉ・・ホントに160万でよろしいんですか❓️」
「はいっ❗️結構ですよ。1年乗ってるし、チョッと傷もあるのに・・こちらこそ申し訳ないです」
「いえいえ・・どうぞお確かめ下さい」
そう言ってお母さんは銀行の封筒に入れられたお金を差し出されたのだが、その日は大変に忙しかったのと、場所が駐車場だということもあったので、確認をすることが憚られたのだ。
「ありがとうございます。ここではなんですし、信用しておりますので確認はいいでしょう」
「まぁそうですか・・間違いなく入っておりますので、では、よろしくお願いします」
前もって名義変更は済ませてあるし、現金と引き換えにクルマを手渡すという約束をしていたので、直ぐに乗って帰って貰うことになった。
スイッチ類などのクルマの説明を一通り終えると、彼女は何度もお礼を言いながらユックリとクルマを発進させて、ホテルの駐車場から去っていった。
ところで、現金の確認はいいです、などと言ってはみたものの、やはり気になった僕は直ぐにトイレに直行してお金を数えることにしたのだった。
ひと口に160万とは言うものの、いざ〈現ナマ〉を手にすると、その存在感は凄まじいものがある。
封筒から壱万円札の束を取り出して、さぁ数えようかと思った時である。思わず手が滑って「バサバサバサッ❗️」っと160枚の1万円札がトイレの床に落ちてしまったのだ。タマタマ入ったトイレが〈和式の個室〉だったのだが、奇跡的に便器の中には1枚も落ちずに済んだのが幸いであった。慌ててかき集めては改めて枚数を確認し始める僕なのであった。
・・・・・・・
リフォーム業者が金を数える姿を見ていてそんなことを思い出した。
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