No.80【駅】

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少年時代に住んでいた街の駅には複数の路線が集まっていて、空港風に言えば、そこはちょっとしたハブ空港のような駅で、広い構内には沢山の線路が入り交っていた。
当時は蒸気機関車全盛の時代で、貨物の牽引等にディーゼル機関車がたまに見受けられたくらいだ。
都会の本線の特急列車には電気機関車が使われていたが、滅多にお目に掛かることはなかった。
当時、猛烈な鉄道ファンの友達がいて「駅に機関車を見に行こうよ」とよく誘われた。
その友達ん家は凄い金持ちで、彼は高価なHOゲージの鉄道模型をたくさん持ってはいたのだが、本物の魅力には勝てないようだった。
その頃の駅はというと、小学生だけでも作業中の構内に自由に入ることができたので、1メートルくらいまで近寄って機関車を見ることもできた。それでも職員からなにか言われる訳でもなかったのだから、現在の鉄道ファンが聞いたら泣いて悔しがるような話である。
駅には、C―62とかD―51などといったいわゆる花形機関車こそいなかったのだが、貴婦人と呼ばれたC―57とかC―58などは配備されていた。
蒸気機関車ばかりなので、煙突から毎日吐き出す煙によってそこら中が煤で薄ら汚れていたものだ。
煤煙と蒸気の臭いがする構内に入っていくと、それらの機関車に石炭や水を補充したり、ターンテーブルで向きを変えては車庫に出し入れしたりするのを目の前で見ることができた。
ところが、僕は1時間も居たらもう帰りたくなるのに、筋金入りの鉄道ファンの友達は夕方暗くなるまで帰りはしないのだった。
そして帰る前のイベントを必ずやらなければならなかった。
それは、駅構内から少し離れた所に小さな陸橋があって、その下を線路が通っているのだが、2人で陸橋の真ん中に立って列車が来るのを待つ、というものだった。
やがて蒸気機関車が何両かの客車を引いて陸橋に向って突進して来るのだが、機関車は煙突から濃いクリーム色の煙をモクモクと吐き出しながら陸橋に向けて突っ込んでくるのだ。凄い迫力である。
「ピッピーッ❗️」
「ドッドッドッドッシュ~ッ❗️」
汽笛を鳴らしながら機関車が橋の真下を通る瞬間には《ドパ~ッ‼️》っと辺りが煙だらけになってなにも見えなくなるのだった。
その煙をモロともぜずに陸橋に立ち続けるのが最高の遊びだったのだが、実を言うと直前になると、僕は怖くていつも逃げていた。
「もう帰ろうよ」
そう言う僕を無視しては、暗くなるまで煙アタックをしては、腹ペコになってやっと帰路につくというのが常だった。

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